
「あ、警告灯ついた」
花園ICを下り、目的地まであと10kmを切ったという所で、燃料不足を表すオレンジ色の警告灯が、ぼんやりとついた。
「ついちゃったかぁ~」
かなり残念なのだが、言葉は気持ちがこめられていないかのような棒読み状態である。それほどまでにドクターうるふの体を疲れが蝕んでいるのだ。時刻は21時。走行開始から15時間。ゴールは目の前である。
走っているうちに、警告灯の光はゆっくりと、消えた。
「47、8(リットル)は入っちゃうかな」
そういいつつも、的確に信号のない道を選択し、巡航速度を維持している。走り慣れた道。効率的なラインは全てインプットされている。
目的のガソリンスタンドまでは踏み切りを越えなければならない。かかるとちょっと厄介な踏み切りだ。
曲がり角。左折するとその踏み切りが見える。まだ遠くにあるが、闇に浮かぶ赤い光でその存在を確認できる。ちょうど踏み切りが上がった瞬間だった。
「ラッキー。」
今踏み切りが上がれば、まずそのまま通過できるだろう。
そして。無事通過。
「さっきから、信号にもかからないし、この踏切にもかからなかった。運が良いかも。埼玉入ってから。」
淡々と語るドクターうるふの目に、ガソリンスタンドの明かりが飛び込んでくる。
スタンドに静かに入る。窓は全て閉めているが、それを通して店員の元気な誘導の声が聞こえてくる。
エンジン停止。走行距離は598.1kmだった。
「ハイオク......満タンだ」
どこぞのマンガで見たセリフをそのまま言っている。この極限状態において、これはギャグなのだろうか、それとも素なのだろうか。皆目見当もつかぬが、とりあえずそれは置いておくことにしよう。
「ゴミ、吸殻などありますか」
「こちら中ぶきになりまーす」
「窓、お拭きしてよろしいですか」
と、手厚いサービスを受けるが、全くの生返事である。鋭い眼光は物凄い勢いで増加する給油量に向けられていた。
「45ぐらいで止まってくんねぇかな......。45なら......13行くんかな?......行くんだな......」
と、つぶやきつつ、祈りつつ。しかし、給油の勢いは衰える様子もなく、45リットルを過ぎた。そのまま、46、47、48......。
がちゃん。

48.95リットルで止まった。
「48.9。48.9だとどうなる......?」
慌てて計算するドクターうるふ。しかし、焦りと疲れで計算できない。
「ちょっと待てよ。49だとして......?」
と、その時であった。
なんと窓を拭き終えた店員が、
ノズルを手で少し持ち上げて、
更に給油しておるではないかッ!
「もう、いいんだよ!」
心の中では言っているのだが、声にならない。
49.7で再び停止。しかし、がちゃ、がちゃ、と、更に断続的に操作して微量づつ給油を続行している。どうやらこの店員、キリの良い所で止めたいらしい。
給油量は、ちょうど50リットルで停止した。0.01リットルの狂いも無く、だ。
キリの良い所で停止させる職人技を披露でき、店員は大変ご満悦の様子である。
50リットル消費で600km走行すればリッター12km。今回は600kmをわずかに割っているので、11.9km/lくらいだと、すぐに分かってしまった。キリの良い所で止めてくれた彼のお陰で計算しやすくなったというわけだ。
闘いは終了した。出発した時は、給油後、全てを忘れて全開くれてやるなどと思っていたのだが、そのような体力はもはや残ってはいなかった。15時間通しつづけた燃費走行は既に体の隅々まで浸透しており、ドクターうるふはゲリラボ本部まで、燃費走行で帰還したのである。
翌日。ゲリラボ本部で結果報告が行われた。ドクターうるふも体力を回復したようである。
「やっぱ、いろは坂の渋滞が一番きつかったと思うよ」
と言うのはゆみごん社長である。
約20分の待ち時間中、アイドリングストップできたのは2回。停止時間は合計しても5分に満たなかった。それが最大の原因だと彼女は推察する。
「あとはやっぱ、山道が多すぎたんじゃない?ロマンチック街道って言うコース設定にも問題があったんじゃないかな」
「ああ。確かに上り坂では燃料の消費が多かった。でも、渋滞よりは実験的に面白いんじゃないかと思ってね。」
結局、報告会での結論は、180SXで燃費11.962km/lはかなり頑張った方、と言うことに落ち着いた。しかし、ドクターうるふはこう言う。
「みんなはああ言ってるけど、これだけの軽量化をして臨んだわけだから、99年7月19日に出した12.021km/lは絶対に超えたかった。少なくともオレは、超えるつもりでいたね。13km/lは出ると思ってたよ。その点ではプリウスには負けたのはもちろん、自分の目標にも届かなかったってこと。完敗だな。
でもまあ、過去の燃費を見ていても10km/lが一つの壁だったからね。それを超えられたって言うのは一つの成果かな。
結局さ、今なんかエコがどうのこうのとか言ってるけど、そういう車ってラインナップのうちのごく一部なんだよね。環境面にも取り組んでますって言ってプリウス出してんじゃダメなんだよ。プリウスってのはそれがウリの車なんだからさ。その裏では余裕の走りが何たらとか言って、ちっとも環境に優しくない車バンバン作ってんじゃん。
グランビアからスープラまで、全車エコロジーにしたんなら良いけどさ。
ま、あれだけ過酷な思いしてもやっと普段より1~2km/l伸びただけだから。プリウス買ったらそれでいきなり25km/lでしょ。すごいよね。それはやっぱり認めるよ。
でもさ、プリウス買った人=地球環境のこと考えてる人みたいなのはどうかな。燃費なんてさ、その人の走り方でずいぶん変わるもんだって言うことが分かってもらえたと思う。どんな車でも、燃費走行を心掛けている人はたくさんいると思うよ。逆にプリウスでひでェ走りしてるヤツもたくさん見たしね。」
姿を消す直前、ドクターうるふはこう付け加えた。
「もう少し涼しい時期にまたやりたいな。今回できなかったことがたくさんあるんだ。って言っても、パンツははくけどな!」
実験は無事終了し、その結果だけを残して、研究員たちはいずこかへ去って行った。
新たな検証が、彼らを待っている。
リッター11.962km。
底まで踏めば他を圧倒する加速、優しく踏めばエコロジー。
180SXなら、それができる。
2020年6月、さらに軽量のロータスエリーゼで再実験した様子を動画で公開!
ゲリラ実験室MISSION11
ゲリラ実験室MISSION11
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