ゲリラ実験室の最近のブログ記事

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【長野県へ】

 取り立てて大きなトラブルは発生しなかったものの、六合村までの行程は距離が長く、気温の上昇もピークであった。疲労は一気に増し、体は汗だらけであった。道の駅「六合」に併設された観光物産センターのトイレで手と顔を洗わせてもらう。時刻は既に午後3時半。

 「つっかれたよなぁ......、実験じゃない、バトルだよ、これはもう。」

 と、つぶやくドクターうるふ。

 「もう、右足のかかとが痛くてしょうがない。足の重さをずっと支えてるでしょ。こういうのって、一度気になっちゃうともうどうしようもないんだよね」

 更にその後、道の駅「草津運動茶屋公園」でも、同様に......否、今度は足までも洗っている。サンダルなればこそなせるワザであるが、その様は怪しさを通り越えて危険を感じるほどである。

 「見てよ、あのキレイなネェちゃん。せめて見える範囲くらい洗っとかないと、恥ずかしくって話もできないよ。」

 と言いながら受付の女性に近づくドクターうるふ。おもむろにステッカーを購入している。彼なりに身だしなみを整えたつもりらしいが、足まで洗ってしまったので、濡れたサンダルからはブジュブジュと不快な音をさせている。

 「あのネェちゃん、オレのワイルドさにうっとりしてたゼ。ま、オレも実験の成功を目前にして、態度に余裕があったっていうのもあるけどね。そういうところから、安心感っていうのかな、そういうのを感じ取ってもらえたんじゃないの?」

 どこをどう間違っても、「安心感」だけは無いはずだと強く思うのである。ドクターうるふは自分がいかに怪しい風体であるかを全く理解していない様子である。

 草津を出発した頃は既に4時を回っていたが、Navin'youの18時間と言う予想よりはるかに速いペースのはずだ。

 この快挙に、ドクターうるふの頭には一つの考えが浮かんでいた。

 「日があるうちに、高速に乗りたい......」

 このことであった。今朝の東北自動車道で、高速走行がどれほど燃費走行を阻害するものかを痛感したドクターうるふは、空気抵抗の増すリトラクタライトを開けたくなかったのだ。当初諦めていたのだが、「このペースならいける......」と思ったのだろう。

 「リトラクタ開けたら、空気抵抗が増すじゃない。通常走行ならまだしも、速度が上がれば空気抵抗はどんどん大きくなるからね。普段は気付かなかったけど、こういう運転をすると、高速走行時の空気抵抗の大きさが良く分かるよ」

 長野原町の浅間酒造観光センター、嬬恋村の浅間ハイランドパーク前を駆け抜け、ドクターうるふは軽井沢町へと入った。7時間ほど滞在した群馬県ともここでお別れである。
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 エンジンブレーキと足ブレーキを上手に使い分け、速度を維持しつつ峠を駆け下りるドクターうるふ。

 「たぶん、600km走れちゃうと思うんだけどさ、こう言うのはむしろ、日頃ガソリンまいて走るような走り方してるヤツらじゃなくちゃ出せない数字だと思うよ。やりたいことはその逆だから。」

 走りも軽けりゃ、舌もご機嫌なようである。

 既に5時を過ぎた。チェックポイントは全て営業時間を終了したと思われので、ドクターうるふは「日のあるうちに高速に乗りたい」という作戦を実行に移すため、国道18号には出ず、浅間サンラインをたどることにした。

 146号から国道18号を経由しないで浅間サンラインに出るためには、別荘地を通過しなければならないが、このあたりの地理にはめっぽう詳しいドクターうるふである。

 「ゆみごん社長もピパ子氏も、軽井沢が好きでね。でも夏場はどうしても混むでしょ。だからこう言う所を通るわけ。覚えちゃうんだよね、何度も通ってると。でさ、慣れてくるとこっちの方が良くなっちゃうの。カンカン照りで信号がいっぱいの18号より、木漏れ日の中の静かな別荘地を通った方が楽だし。」

 と、スマートキャプチャのシャッターを切る......。すると。

「あれ......?」

 おびただしい数のユーザーズポイント。しかし、同じ写真が複数のポイントに登録されるトラブルのため、全く意味がなくなってしまった。 突然の、頼りない声。
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「この写真、今の場所じゃないぞ?」

 なるほど、これはまぎれもなく、高速道路上の写真である。シャッターを切ること既に50ヶ所を超えている。当然、それだけユーザーズポイントとして登録されるのだが、ポイントの位置情報は合っているものの、写真の種類は10種類くらいしかなく、違うポイントでも同じ写真が表示されたりして、全く使い物にならない。

「なんで?!」

ドクターうるふの怒りはおさまらない。これでは地点情報、時間と同期した写真が得られないではないか。運転しながらザウルスで写真をとることは不可能だ。パソコンが占有しているので、電源もない。

「何なんだよォ、おめェはよォ!」

 ところが。泣きっ面にハチとはこのことか。事態の改善を図り、エクスプローラーを立ち上げた瞬間、

システムリソースが極端に減少しています。次のアプリケーションを終了しますか?

アドレスキャッチャー

[はい]         [いいえ]
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 などという、白いウィンドウが現れた。アドレスキャッチャーなどの不要なアプリケーションをここで終了させたが、動作は不安定のまま、やがて全てのキー操作を受け付けなくなってしまった。C1の電源を強制的に落とし、とりあえず停車できる場所を探す。これにより、ここまでの走行パスは全て消去された。

 あと1目盛りを残し、走行距離は415km。通常なら、給油している走行距離だ。 別荘地を抜け、浅間サンラインに突入した。路肩に180SXを停める。原因はおそらく走行パスの記録量が多すぎてリソースを食ってしまったのだろうが、C1の冷却、Windowsの再起動など、今まで効果のあったことを全て実施し、再起動後は不要なアプリケーションを終了させる。
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 この時点で走行距離は415kmに達していたが、燃料計はあと1目盛り以上の残りを示している。浅間山を背景に写真を撮影(上)し、このまま上田まで浅間サンラインを通って行くことにする。時刻は5:27、何とか日のあるうちに上田に到着できそうである。

 浅間サンラインは予想通り、順調に流れていた。国道18号であったら、こうは行くまい。御代田から佐久まで一気に下る道は魅力的だが、小諸から再び登りになるし、南の佐久を経由する分、そっちの方が遠回りになる。

 そして。

「上田、入りましたよォ!」

 ロマンチック街道27個目の市町村、上田市に入ったのは5:50であった。この実験も終盤に差し掛かる。最終チェックポイントは当然、上田城。そこまでは、距離にして約8kmであった。

 しかし、このあと、衝撃の事件が待ち受けていたのだった!!

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 いろは坂手前で渋滞にかかったドクターうるふ。
 この渋滞が最悪だったのは、ロクにアイドリングストップができなかった点にある。

 どうやら、土砂崩れによって第二いろは坂が完全にふさがれてしまったらしく、下り専用の第一いろは坂を交互通行にしているようだ。しかも交互通行は部分的ではなく、第一いろは全行程を交互通行にしているらしい。従って、上で待っている車が完全に降り切ってからこっちが登れるのだ。

 待ち時間の長さにシビレを切らせて脱落する車は後を絶たない。車は断続的に前進し、アイドリングストップができない。

 しかし、幸いなことにドクターうるふが登る番は思ったよりも早くやってきた。まだ、20分程度しか待っていないはずである。
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 看板はみんな裏側を見せている。本来下り専用のはずの第一いろはを登っている貴重な瞬間だ。

 先頭にトラックがいるようだ。異様に遅い。勾配もカーブもきつい第一いろは坂は4t以下のトラックと言えどもかなり難儀するようだ。

 平均速度はほとんど時速20km程度であったろう。途中、停止することもしばしば。このルートを上下線で利用していた頃は、さぞ渋滞もひどかったに違いない。

 さて、この急勾配を遅い速度で登ると言うのは、予想以上に燃料を消費する作業であった。ストップアンドゴーを何度も重ねつつ、いろは坂を登り切った。華厳の滝駐車場に差し掛かったときには、既にいろは坂を下ろうと言う車の行列が中禅寺湖の遊覧船乗り場付近にまで達していた。

 再び車は順調に走行する。渋滞の問題も去ったので、ここで再度ナビの復旧作業にかかることにする。中禅寺湖畔、菖蒲ヶ浜付近の無料駐車場に車を入れた。

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 「通信できないんじゃ、衛星の情報が来るわけないよな。」

 ドアを開けると涼しい風が車内に入ってくる。燃費走行のため、エアコンを使用しないのは当然で、空気抵抗も考え、窓すら開けずにここまでやってきたのだ。まるでサウナから出た時のようであった。

 Windowsを再起動し、今度は同時にGPSアンテナも初期化する。

 画面は先程と変わらぬ「衛星探索中」という表示が右下に出たままである。ここから10分走行して再び様子を確認する。外気の冷たさを知ってしまったドクターうるふはもう、窓を閉めて走行することはできない体になっていた。助手席側の窓を全開にして運転再開。

 竜頭の滝を過ぎ、戦場ヶ原に入った。視界が開け、アンテナを遮るものは何一つない。すると?!

 衛星を2個だけ、補足したのである。これでは現在位置の測位は出来ないが、アンテナが動作していることは確認できた。

「もしかして、熱かぁ?!」

 確かに、C1の画面の裏側は素手では触れないほどに熱くなっている。閉め切った温室のような中での使用、更にC1のある位置は直射日光にさらされる場所である。助手席側の窓を開けたことで、少し緩和されたのかもしれない。

 外気送風をフロントガラスに当てる方向にする。これでC1の画面裏側に風が当たるようになった。

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 湯ノ湖を過ぎたあたりで再び車を停め、VAIO-C1を外に出す。C1本体を冷却すると共に、アンテナを室外に出し、一気に受信してしまおうと言う考えだ。一旦受信してしまえば、その後は比較的安定する。ドクターうるふは、この作戦に、賭けた。

 すると......待つこと5分、ついに3つの衛星を捉えたではないか。

「来たァ!
来た、来た、来たァ!」

 エンジン始動。今度は送風の出口をC1の画面裏に強烈に当てて対策する。もうすぐ金精峠、これを抜ければ群馬県だ。......と思ったその時。

ピピッ......。

 と言う音と共に、青い画面に変わり、C1が現在の状態をハードディスクに記録し始めた。この現象は、電池の充電が著しく低下した時に、発生する。

「インバーターの電源、入れるの忘れてた!」

 いまさら気付いてももう遅い。C1の電源は切れ、同時にGPSアンテナの電源も切れた。これで、ふりだしに戻る、である。

「せっかく受信し始めたのに......!」

 このトラブルの発端、先程の大谷資料館と同じ、いや、それよりひどい状態になった。絶望と共に180SXは金精峠トンネルに突入する。

 トンネル内でインバーターの電源をONにし、C1に電源が供給される状態にして再び起動。C1は先程記録した情報を再びメモリに読み込み始める。

 「頼むよォ~......」情けない声のドクターうるふである。

 そして。

 GPSのアンテナもピピッと鳴って、受信を開始したではないか。

 その瞬間、トンネルを抜け、群馬県に入った。2個、3個......。アンテナはすぐに衛星を補足した。トンネルから出てわずか1分で4つの衛星を補足し、Navin'youは3D測位を始めた。

 そしてここからは快挙の連続であった。

 まず、前走車がいない。道は全て下り。ドクターうるふはギアをニュートラルにし、惰性走行で坂を下る。減速が必要な場合は、エンジンブレーキを優先させる。

 「基本はエンジンブレーキ。充電もできるし。インバーターからパソコンの電源取ってんだから。」

「たのしー!」

 車内を駆け巡る涼風も心地よい。菅沼付近まで快調に下りきり、丸沼までのわずかな登りでアクセルを踏んだものの、丸沼からは再び下りセクション。途中、観光バスの後ろにつくまで、ほとんどアクセルなしで白根温泉付近まで来てしまった。

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 ここのあたりからはドクターうるふも良く知った道である。片品、利根、白沢、沼田とチェックポイントを通過し、同時にロマンチック街道ステッカーラリーのステッカーも購入する。

 このあたりは道に迷うどころか、Navin'youが指定しないようなマイナー道路を利用してショートカットなどのワザも披露する。

 そして、その後到着した道の駅「川場田園プラザ」では......

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「きっ、貴様は、プリウス!!」

 この勝負は「プリウスに勝てるか?!」を掲げている。その宿敵とこの実験中に対面してしまうとは。最近新しくなってまた1km燃費が良くなったと聞くが、180SXとて、負けては居られぬ。

 決意も新たに川場田園プラザを出発したのは既に11時半。出発してから、5時間半が経過していた。

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 この後は昭和町の総合福祉センターがチェックポイントとなっている。このあたりはチェックポイントが密集しており、やけにエンジン停止の回数が増えてしまったことを後悔する。別にステッカーなど買う必要はないのでは......?ドクターうるふの頭に迷いが生まれる。

 そのため、次の月夜野町のチェックポイント、月夜野びーどろパークは水上までの通過点でもあるため、寄らずに前を通過するのみとした。

 12時を過ぎたので、コンビニで停車して、少量の昼食を取る。もちろん重量の増加を嫌ってのことだ。食事はコンビニの駐車場で即座に完了させ、ゴミはその場でゴミ箱に入れさせていただくことにする。これも、少しでも重量を稼ぐための手段である。

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 このあたりで新たな問題が発生した。室内温度の上昇に絶えられなったのである。パソコンではない。ドクターうるふ自身がである。

 これまでは比較的標高の高いところを走行していたこともあって、助手席側の窓だけ開いていれば耐えられたのだが......。C1のこともあるし、運転席側のドアも空け、室内温度を下げることにする。

 道の駅「水上水紀行館」に到着したのは12:40であった。ステッカーを購入しようとしたが、昼休み中だったのか、インフォメーションが居なかったので写真のみ撮影して出発する。

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 途中何度か道を間違えるも、途中、新治村・「たくみの里」、高山村「高山温泉・ふれあいプラザ」(休業中だった)、東村「あづま桔梗館」を通過。伊香保の温泉街が見えた頃、燃料計はちょうど半分に達する。走行距離は312km。この倍走るとすれば600km、かなりの好成績だ。

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「もらったでしょう、この勝負は」

 ドクターうるふ、行程半ばにして早くも勝利宣言である。伊香保からの下りは榛名山2コーナーから右に折れる道を選択する。

 「こっちの方が車が少ないしね。惰性走行で90km/hは出せるよ。」

 このあたりは地理に明るい。道幅も広く走りやすい上に、歩行者もいない。

 吾妻側を再び北西へ走り、180SXはチェックポイントである吾妻町・JAあがつま、中之条町・薬王園を経由して六合村へ向かう。

「あちぃ~......」

 沢渡温泉を過ぎ、暮坂峠までの道はカーブも急で、効率的な運転ができず、必要以上に神経を使う。しかも気温の上昇はドクターうるふの体力を容赦なく奪い、VAIO-C1を誤動作させ、運転のミスを誘う。

 さらにこの後、ドクターうるふに追い討ちをかけるようなとんでもない事件がふりかかるのである!


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「ハイオク満タン入りました、
ありがとうございまーす!」

 全てはこの瞬間から始まる。明日はスタンドが開店するよりも早く出発するため、前日のうちにガソリンを満タンにしておいたのだ。スタンドを出てから、燃費走行でゲリラボ本部まで帰る。

【コース・使用車解説】

「このコースで、行こうと思う」

ドクターうるふが示したのは上のようなものだった。昨年、合計6日間をかけて走破したロマンチック街道であった。

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「ちょっと、これ、長過ぎない?!」

 ゆみごん社長も動揺を隠せない。しかし、ドクターうるふは

 「このくらいじゃなきゃ、ダメだ」

 と、意に介さない。

 彼が示したコースは、ゲリラボ本部を出発し、日本ロマンチック街道の全市町村を全て通過して帰還すると言うもので、Navin'youによれば、その距離584km、時間にして18時間51分を要する。コースは各市町村に経由地を設定して探索し、経由地は毎年行われる「日本ロマンチック街道ステッカーラリー」のチェックポイントを参考にした。

 当然、今回はステッカーを買ったりはしない。ただ、街乗り、山道、高速道路と、一通り組み入れたという理由だ。
 ただ、燃費走行が目的のため、道に迷った場合は、このルートは変更しても構わない。

 帰還後、再び満タンにして走行距離に対し、どれだけガソリンが入ったかで燃費を割り出す。今回のコースであれば、50リットルの消費でリッター12km/lを出せば600km走行できるので、無給油で帰還できる計算になる。当然、これほどの距離を無給油で走行したことはない。
 なお、コース途中でガス欠になりそうな場合は途中で給油し、その時点の燃費を実験結果とする。が、完走できないと言うことは燃費も悪いはずなので、記録的な燃費はその時点で望めない、と言うことになる。

使用する180SXのスペックは以下の通り。
・日産180SX(平成5年式)
・エンジン形式:SR20DET(2000㏄ターボ、205馬力)
・車体重量:1410kg(車検証による)
・TRUSTエアインクス、ブリッツのマフラー、カヤバクライムギア+TEIN S・TECH
・タイヤ:ダンロップ・FORMULA FM901 205/50R15(ノーマルからのサイズ変更なし)

取材道具も紹介しておく。
・カメラ:SHARPパワーザウルスMI-506、
・ナビゲーション:SONY製ノートパソコンVAIO-C1+ナビゲーションソフトNavin'you4.5



【栃木エリア】

 翌朝。レースカーのような車内はたった一人で600kmを走行するには寂し過ぎるものだった。持ち物は最低限の金銭と、非常用の携帯電話、取材道具のみ。テンパータイヤ、ジャッキ、車載工具も全て降ろしての実験。例えパンクであっても自走帰宅は出来ない。

 緊急時に車中泊する可能性もあるため夏用の寝袋(約900g)を積み込む。これは、内装を全て取り払った180SXはリアウィンドウに激しく映り込みしてしまうが、トランク部分に敷くことで映り込みを防ぐ為にも使用する。

 なお、服装はTシャツにハーフパンツとかかとまでホールドしてくれるサンダルで靴下も履いていない。パンツも履かなくていいかと思ったが、そこまでは止めておいた。

 6:00。ゲリラボ本部を出発。SONY製ナビゲーションソフト「Navin'you」をVAIO C1のカメラを利用したスマートキャプチャと接続させる。これで、ある地点でシャッターボタンを押せば、位置情報と共に写真が地図上に配置される。

 およそ16kmを走行し、6:30、羽生ICから高速道路に入る。
 急激な軽量化のためにクラッチミートの位置が若干変わっていたが、この頃には完全にアジャストしていた。

 6:33、群馬県に入り、38分には栃木県入りした。
 この日の高速道路は車はあったものの、順調に流れていた。4速3,000回転で時速約80km。この状態をキープすると、吸気圧は400~500mm/Hgで済む。5速に入れてしまうとその吸気圧は維持できない。ところが、負荷の低い下りはギア比の関係で5速に入れた方が低い吸気圧で走行できる。僕は上りと下りの微妙な勾配を判断してギアを選択していった。

 鹿沼ICに到着したのは7:06であった。最初のチェックポイント、大谷資料館へと向かう。しかし......。

「何だよ、この道はよ~」

 大谷資料館入り口の駐車場にて。ここでナビの受信を一旦停止した後、トラブルは発生した。
 とんでもない細い道&曲がり角の連発。Navin'youは時たま、こうした道を指定してくれる。道が細いのはまだ許すが、曲がり角が多いとそれだけ燃費走行にはマイナスとなる加速・減速・発進を繰り返さなければならない。
 格闘すること約20分、間違いを繰り返しつつも何とか大谷資料館前に到達した。

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 大谷資料館では日本ロマンチック街道宇都宮市のチェックポイントとなっており、ステッカーも売っているが、残念ながらまだ営業時間前である。写真撮影だけで出発する。

 エンジンを始動し、スタンバイにしたC1を再び起動する。同時にGPSアンテナもピーッと鳴って起動。

 ......ところが。である。走行を始めたはいいが、USB接続のアンテナが現在位置を示さない。初めて買った時は自分の位置を探し出すのに10分以上かかった。今回もそのくらいかかってしまうのか......?しかし、待てど暮らせど、現在位置を指し示すことはなかった。仕方なく手動で地図をスクロールさせる、という作業に追われる。そうしたゴタゴタの中で僕は鹿沼市のチェックポイントへの道を見逃してしまう。ICから降りた時点で既に鹿沼市は通っているが、せめてチェックポイントの前くらい通過したかった。

 やがて、今市市の市緑ひろば前。8:00くらいだったはずだが、ナビが衛星を補足していないため記録がない。こちらも営業時間前なので通過する。

 今市市の中心部を過ぎると杉並木の道である。この並木道はNavin'you3.5の車外装着GPSアンテナの頃から衛星を補足できなかった場所だ。車内設置のアンテナでは更に困難であろう。

 とうとう、国道119号の終点、日光市の神橋まで達するが状況は全く打開されない。これは単に衛星を補足できないのではなさそうだ。左折してロマンチック街道のメインストリート、国道120号に入る。

 するとそこは渋滞。東照宮が近いせいか?

 「月曜から観光か~?」

 分かっていてもショックは隠せない。アイドリングで待つにせよ、アイドリングストップしたにせよ、余計な燃料を消費することには変わりない。しかも今日は信号3回ほど待たされそうである。

 と、その時!前を走っていたトラックが国道120号を逸れ、大谷川沿いの脇道を左に入っていったのだ。

「あれは知ってるヤツの入り方だぜィ!」

 そう、このトラックの迷いのない突入。裏道を知る者と見込んで、後をつけようというのである。
 果たして。やはり彼は道を知っていた。あっけなく信号を回避した。
 ところがドクターうるふは途中で車を路肩に停め、エンジンを切ってしまった。何をしようというのか。

 「ナビが動かないんじゃ、どうしようもないでしょう。これ使わないんだったら、軽量化のために持ってこなけりゃ良かったってことになる。この成果を、いかに正確に伝えられなきゃ意味がないから、車載工具は捨てたけど取材道具は積んで来たんだよ。動いてくんなきゃ困るわけ。」

 と言いつつ、Windowsを再起動している。再度Navin'youを立ち上げ、GPSの受信を開始。ピーッという音は今度もちゃんとした。

 「これで動いてくれよ。いろは(いろは坂)はナビ付きで上がりたいんだよ......」
 エンジン始動とほとんど同時に発進。いろは坂に向かう。

 ドクターうるふがこれほどまでにナビにこだわるのは、彼が道を知らないからではない。正確な時刻と位置をログとして記録したいからだ。
 更に、VAIO C1のシャッターを押せば、位置情報と共に画像データも記録される。これらが正常に作動して、ドクターうるふは実験+取材を一人でこなすことができるのだ。
 時間と現在位置と写真を手動で紐づけることは、ハッキリ言って不可能。実験は成功しても、そ信憑性の低い報告になってしまう。

 しかし......である。またしてもナビは衛星を捉えてくれなかった。いろは坂はすぐそこまで迫っている。

 ナビの問題が解決しないまま再び車が渋滞し始めた。先程の神橋前のような甘い渋滞ではなさそうだ。こんな所には脇道もない。
 しかし、ドクターうるふはこれをチャンスとばかりにGPS受信を一時停止し、アンテナの初期化を行うことにする。以前、ナビが正確な位置を示さなかった時にはこの方法で復活させた経験がある。

 ナビを初期化している最中、赤い棒を持った人が車を停めている様子が遥か先に看て取れた。

「検問か?!」

 既に2回検挙され、警察に対し計89,000円という多額の寄付をしているドクターうるふは、回転灯や赤い棒に異常に過敏に反応する体になっていた。

 「ベルト、よーし。速度、よーし。免許、よーし、メガネ、よーし」

 検問がある場合、この4点を指差し・声がけ確認する。4点の中で最も危険なのが速度であるが、今回は既に渋滞しているので問題ない。

「酒。もちろん飲んでないからよーし...。
あ?!」

 ふと、気がついたのである。乗車定員4名の車に乗車装置が、ない。

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「この車内は、ヤベェわなぁ......!」

 このことであった。

 「ゲリラ実験室つっても、知らねぇだろうしなぁ......」

 しかし、すぐにそれが警察官でないことに気付く。警官よりも服の色が若干明るいようだ。それと共に、左側に看板が現れた。

「いろは坂土砂崩れにつき、
大型車は通行できません」

 程なくして、Uターンをする車が発生しだした。それほどまでに深刻なのか?
 すると、その交通整理の人がやってきて「窓を開けてください」と要求してくる。窓は開かないのでドアを開ける。怪訝そうな顔をしながらも、こう言うではないか。

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 「現在いろは坂は土砂崩れで通行が困難になっています。通過には1時間かかるとお考え下さい。現場では作業員の指示に従ってください。」

 と、続ける。それにしても1時間とは......。

 このことを聞いて、更にUターンを敢行する車が増えた。

 どうするか?1時間の渋滞では、記録的な燃費は絶望的だ。迂回して赤城山の南を回り、沼田からコースに復帰するか......?
 しかし報告では「日本ロマンチック街道を600kmを走破」と言った方が分かりやすい。そう言いたければ、利根沼田エリアをパスするわけには行かない......。

「上等じゃねぇか。
突っ込んでやるよ、
1時間の渋滞によォ」

 と、完全に闘志を燃やしてしまっている。本当に大丈夫なのか?!


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2020年6月、さらに軽量のロータスエリーゼで再実験した様子を動画で公開!
ゲリラ実験室MISSION11







「ムリだぜ、今回のは。」

 いつになく自信のないドクターうるふである。

 「プリウス相手に燃費対決なんて。それはさすがに...敵うワケがねぇ。」

 ゲリラボ実験内容の検討会議での発言。どんな不利な勝負でも常に自信のある姿を見せ続けたうるふであったが、さすがに今回は乗り気ではない。

 「いいじゃん。それなりの結果が出れば。こっちはスポーツカー、向こうは燃費だけの車じゃん。その辺は加味して結果を受け止めてもらえるよ」

 と、冷静なゆみごん社長。この人物、他人事にはいやにクールな分析を見せる。

 「オレはその"それなりの結果"って言うのが嫌なんだよ!」ドクターうるふは席を立ってしまった。

 長期実験中の項目に差し替えも考えたが、まだ、完全な結果を得られておらず、発表の段階ではない。今回はとにかく燃費対決で行くしかないのである。

 「ちょっとぉ。結果がどうでも実験はするって 「ゲリラボとは」 にも書いたでしょ!」

 今回は、ドクターうるふの説得から開始せねばならないようだ。



 ドクターうるふは考えていた。

 スポーツカーは根本的に燃費が悪いものだ。パワーを出すために、シリンダー内にどれだけ多くの燃料と空気を入れられるかが勝負の車である。それでも180SXの燃費は通常走行で9。パワーと燃費を両立した、すばらしいラインであると思う。ただ、最近出てきた20km/lを超えるような車と張り合うというのは畑違いもいいところだ。技術の差がもろに出てしまう部分で、最新の車との勝負など、成立するのか......。

 今までの燃費の最高が12.021km/l。金沢から深夜のノンストップ走行で叩き出した、たった1度の値だ。たとえば奇跡的にもう一度これが出たとして、

 180SXで燃費12km/l。

 なんて結果でいいのか。こんな結果を公開して燃費20km/lを超えるプリウスと戦ったことになるのか。なるわけがない。だいたい35km/lも走るインサイトなんてのも出てきやがった。今時、リッター12kmなんて誰も驚きはしまい。「今更何言ってんだ、コイツ」となるのがオチである。

 それがドクターうるふには耐えられなかった。

 翌日。一人になって考え、気分も落ち着いたのか、ドクターうるふも話し合いの席に再びついた。

 「見てよ。あの後ちょっと調べてみたんだけど......。」

 ゆみごん社長が提示したのはプリウスが北米大陸を横断したときのものである。この車は1999年の東京モーターショーにも展示されていた。トータルの燃費は16.8km/l。20km/l台ではない。

 「更にさ......。」

 まだ、あるようである。

 「プリウスオーナーのページを見つけたんだけど......。」

 ゆみごん社長の愛機、VAIO737の画面にはオフラインでWebページが表示された。既に旧型のVAIOだが、買い換えるつもりはないと言い張っている。

 「12km/lくらいの報告もあるんだよね。14,15レベルはザラ。そのページによると初期不良も出てるらしいし、やっぱり、20km/l以上って言うのはプリウスと言えどもある程度気を使わないと出ない数字みたいだよ。」

 ドクターうるふの沈黙は続く。じっと見守るゆみごん社長。少しして、ドクターうるふは立ち上がった。

 「180SXのオイルを替えるぞ。要らないものは徹底的に下ろして最軽量状態にするんだ。」

 「やるのね?」

 「絶対に勝てない相手に挑むってのも、悪いもんじゃない。できれば、少しはプリウスをヒヤリとさせてやりてぇもんだな...!」


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パワー志向のスポーツカー180SXで、
エコロジー燃費走行は可能なのか?!
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180SXの究極の燃費
と言うフロンティアを
オレは見たいんだ。

エコロジーの代名詞、プリウスを相手に無謀な挑戦、一人旅。


埼玉県ゲリラボ本部を出発、
日本ロマンチック街道・全市町村を通過し、
無事帰還できるのか?!

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「このコースで、行こうと思う」
「ちょっとこれ、長過ぎない?!」

全行程約600km。走破予想時間は19時間。
これをドクターうるふたった一人で実験!


究極の燃費走行とそれを阻む数々のトラブル!
予想を越えた過酷な闘い。
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「通過には1時間かかる
とお考え下さい」
「ああああああ!
全開で走りたーい!」


完熟走行で培った技術もことごとく打ち砕かれるドクターうるふ。
エアコンなしの炎天下。極限の精神状態に!


出るのか?!究極の燃費?!

ゲリラ実験室、MISSION5。




2020年6月、さらに軽量のロータスエリーゼで再実験した様子を動画で公開!
ゲリラ実験室MISSION11

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 とはいえ、今の自分の判断に自信を持てずにいることもまた、事実である。どんよりとした雲になだらかに上る薄くらい道。本当にこの180SXは国道18号へ向かっているのか。少しずつ、貴重な時間が経過して行く。

 と。ドクターうるふの前に、ひとつの橋が見えた。


「よっしゃ、18号だ。」
「出た?」

 頭上を越える大きな橋は、紛れもなく妙義山を見晴るかす国道18号であった。橋をくぐるとすぐに右折し、180SXは国道18号線に合流した。おぎのやまでは、そう遠くない。が。15時26分。

 「真子ちゃ~ん!」

 坂を駆け下りる180SX。上信越自動車道が見えてきた。信越本線の上を越え、上信越自動車道の下の「五料」交差点を通過する。

 「あー、オレの天使を地上から連れ去らないでくれ!」

 

 ............







 ............


 「つまり‥‥、そういうこと? あたしに‥女として魅力がないってこと?」

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 ............

 

 車が増えてきた。時速は60km。決して遅くはない。しかし、今のドクターうるふ、否、池谷先輩にとっては遅すぎる速度。

「 ゴメン‥‥   
  真子ちゃん 」

ぜつぼうだああ

 おぎのやの前の信号にかかり、真子ちゃんとの待ち合わせの駐車場に到着したのは出発から1時間3分後であった。

 真子ちゃんは、碓氷峠方面に去っている。ドクターうるふ駆る180SXと、すれ違うことすら、ない。

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「1時間は切れない......のか?」

 やはり、高速道路の方が速かった。わずか6分ではあるが、高速道路の方が速かったのである。ドクターうるふの予測は、またしても崩れ去った。


 「ダメぇ?ダメなの、これ?勝ってないの?」
 「ダメだ。やはり高速道路の方が速かった。残念だが......、それが今回の実験の全てだ。」

 ドクターうるふはきっぱりと言い切った。

 「高速の方が、あんなに遠回りなのに......。遅い車の後ろに着いたじゃん。池谷先輩は夜だからそんなに車、居ないでしょ。」
 「それ読者が判断する事だ。これは神様がくれたワンモアチャンスなんだ。もう一回はない。」

 と、ドクターうるふはゆみごん社長を制した。

 とはいえ、池谷先輩は渋滞に遭い、そこでタイムロスをしている。今回の実験の結果を踏まえて考えれば、渋滞に遭った池谷先輩よりは、確実に一般道の方が速かったことは明白である。

 結果から言えば、あの日あの時、池谷先輩は下から行けば真子ちゃんに会えた可能性は、きわめて高い。池谷先輩が到着する1分前まで、真子ちゃんはおぎのやで池谷先輩を待っていたのだ。この日池谷先輩がどれだけの時間をかけてここに到着したかは不明であるが、1時間3分で到着したのなら、池谷先輩は間違いなく真子ちゃんに会えていたはずである。無論、この道での渋滞など、ありえない。

 しかし、ゆみごん社長とドクターうるふがこれほどまでに通常の高速での所要時間を切る事にこだわったのは、池谷先輩の判断の正否を問いたかったのだ。

 店長に追い出されるようにして店を出た池谷先輩が、渋滞している事を知るすべはない。と、するならば、池谷先輩は通常の高速道路の所要時間と、一般道の所要時間でどちらの道を行くか、選ぶはずである。

 今回の実験で、わずか6分ではあるが高速道路の方が速くおぎのやに到達できる事が判明した。すなわち、店を出発した時点での池谷先輩の判断は、結論から照らし合わせるなら「正しかった」と言える。渋滞が発生したのは、運命の悪戯に過ぎない。

 「ただ -」

 180SXのキーを放り投げては取る、と言う動作を繰り返しながら、ドクターうるふはこう付け加える。

 「出発時の池谷先輩の判断が正しかったと言うのは実は正確ではない。なぜなら池谷先輩は「どんなにとばしても」1時間以上かかると言っている。しかし実はちょっと飛ばせば1時間を切れるんだ。池谷先輩がその事実を知った上で高速を選んだのであれば、それは判断としては正しいが、彼の中の判断材料は高速でも1時間以上かかる距離だったんだ、横川は。」

 ドクターうるふは立ちあがり、180SXの方へと歩き出した。

 「おそらく池谷先輩の中では「判断」と呼べるものはなかっただろう。行き方として知っていたのは高速だけだったんだ。それが彼の運命ってことさ。そして我々は、多くの読者が抱いたであろう、疑問にひとつの答えを出した。それだけのことだ。」
 「そんなぁ......。」

 「なに、きっと池谷先輩は別な形でチャンスが来るよ。オレ達がチャンスを与えようなんて、おこがましいってことさ。」

 ドクターうるふは再び180SXに乗り込んだ。また渋川に戻って、撮影し損ねた渋川の景色を撮るという。おぎのやの駐車場に、心地よいサウンドを残して、180SXは去って行った。

運命をかけた選択に、他人の考えを容れてはいけない。
池谷先輩は高速を行き、ドクターうるふは一般道を選んだ。
結果はどうあれ、信じる道を歩んだ結果なら、納得できる。







【ゲリラ実験室MISSION9】

CAST
   池谷先輩 : ドクターうるふ
真子ちゃん : ピパ子氏

写真に追記したセリフ、擬音はWindowsに付属の「ペイント」で根性で手書きしたものです。
原作からのコピーなどは一切行っておりません。


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【一般道】

「とりあえずハイオク満タン 入れてもらおうかな‥」
(14巻P18。‥の数まで合わせて言ったぜ......)

 「また言ってんのかよ。」
 「さっきとは変えたはずだぜ。」
 「啓介が涼介に変わっただけで、頭文字Dであることには変わりないじゃん。さっきも入れに来たし、絶対変だと思われてるよ。」

 ドクターうるふはそれには答えず、給油後、即座にエンジンをスタートさせた。
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 「行くぜ、一般道。スタートは15:30。
 ゆみごん社長も乗り出すようにして写真を撮る。正面には頭文字Dで何度となく登場しているジャスコが見えている。

 ドクターうるふは赤信号の虚を突いて、ガソリンスタンドから出てすぐに右、すなわち伊香保方面に向かった。

 「あれ、こっちなの?」

 「ああ。このまま少し登って、明保野と言う交差点を左に曲がるんだ。いくら池谷先輩が一般道を知らないからって、渋川と伊香保周辺くらいは知ってるだろ。このまま少し下りて(渋川駅方面へ行って)、すかいらーくの交差点から南下しても良いが、あそこは信号も多いし混むことを、池谷先輩は日ごろの行動で知っているんだ。」

 「あのすかいらーくも良く使ってるみたいだしね。」
 「そういうことだな。」
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 なお、一般道に関しては池谷先輩は道を知らないという想定で走るため、Navin'youは封印して走行する。上の写真のように画面を倒してドライバーからは見えないようにした。画面左上にGPSアンテナをクリップで挟んで装着していたのだが、こうするとその技が使えないので、ビニールテープで固定する。
 VAIO-C1側の赤いビニールテープは画面が閉まったときのロック部分である。走行時の振動で画面が閉まってしまうと、ロック部にあるボタンが押され、C1は電源を落としてしまう。それを防ぐための措置だ。

 Navin'youはドライバーに現在位置などの情報を伝えることなく、静かに走行パスだけを記録している。

 さて、そのドクターうるふであるが、明保野交差点への道もこの時間既に混雑しており、信号もタイミング悪く次々と180SXの足を止める。さらに悪いことには、軽自動車の後ろについてしまったことである。伊香保への道の急勾配を、軽自動車ではスムーズに登ることは出来ない。速度は遅々として上がらない。

 「大丈夫なの?この道。」
 「大丈夫だ。これ以外の道はない。」
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 そうは言いながらも動揺するドクターうるふ。ご丁寧に明保野交差点の信号にも先頭で掛かり、出発してから既に9分を要してしまった。高速所要時間の6分の1をここで使ってしまったのである。

 「だが、こっからは良い道だ。」

 確かに、道は良かった。が、一分一秒でも早く真子ちゃんの元に馳せ参じたいとアクセルを踏む仮想池谷先輩(ドクターうるふ)駆るシルビア(180SX)はすぐに先行車に追いついてしまう。

 遅くはない。いやむしろ彼らの走りも普通であれば速い方であろう。確実に制限速度をオーバーしている。が、このときの池谷先輩の置かれた状況ではこれでも

 「遅い......」

 はずである。榛名山(秋名山)の裾野の林の中を車は列になって走っていった。

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「何とかなんねェかな、この列は。」
「消えてくれることを祈るしかないね。」

 なお、この実験において、追越は一切していない。これは走る前からドクターうるふが決めていたことである。追い越しは危険な行為であることをドクターうるふは良く知っている。万一事故などが発生すれば、外部に漏れてはならない当集団の存在や実験内容の詳細が漏洩することになる。

 また、そんなことをしなくても一般道の方が早いのだと言う、ドクターうるふの自信もある。

 -池谷先輩、あなたが一般道を選んでいたなら、「安全運転で流れを乱さない」、真子ちゃんを横に乗せていたあのときの走りで真子ちゃんに会えたんですよ-

 ドクターうるふのメッセージだ。

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 途中、2台ほど前を走っていた白のマークIIが途中の路肩に入った。前走車が減ってほしいという願いが、まず一つ、届いた。

 しかし、その後信号にかかると、180SXの前に難題化のクルマが入ってきて、逆に前を走る車は増えてしまった。

 「やっぱ、一般道は、これがつらいな。」
 信号と他車。いくら急いでいても、これは如何ともし難い。

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 「今どこ、ここ?」
 「榛東ふるさとナントカって書いてあったよ。」
 「シントウ......?わかんないな。でも、方向的には合ってるはずだと思うが。」

 いずれにしても前走車がいる限り、あせっても仕方ない。それに、結構良いペースで流れている。行ける、このペースなら行ける、ドクターうるふはそう確信した。時間はまだあと43分もある。それだけあれば絶対におぎのやまで到達できる。

 自衛隊の演習場と思しき施設の脇を通過し、ドクターうるふ駆る180SXはペースを上げる事も落とすこともなく、車の列の最後尾を走っていった。

「くそっ、また赤か!」
「まだ黄色!行けるでしょ、突破でしょ。」
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「そうか?よし、真子ちゃ~ん!」

 少なくとも傍から聞いたら意味不明の叫びをあげながら、怪しいタイミングで信号を突破する180SX。

 180SXはここで榛東村を出、箕郷町に入った。そのとたん、道が右か左かのどっちかに分かれる。

 「どっちだ......?どっちなんだ、真子ちゃんの呼んでいる方向は?」
 「方向的に行きたいのはどっち?」
 「真っ直ぐ......。でも行けないからどっちかって言ったら近いのは右かな?」
 「ヨッシャァ、それが真子ちゃんの呼んでる方だぁ!」
 「そうかぁ、ヨシ、右だァ!」

 180SXの車内が徐々にいようなテンションに包まれてきたことを、このとき2人は実感した。このテンションが、さらに180SXを真子ちゃんの元へ強く引き寄せてくれるような気がしていた。

 右折後、再び左折し、良い方向へと向かい始めていた。前には2トントラックが走っているが、ペースは遅くない。ものの、今の池谷先輩の走りに比べればまだ不満足である。
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 「いつまでお付き合いだ?」
 「大して遠くまで行かないでしょ、これは。」
 「だろうな。」

 ドクターうるふもゆみごん社長も、そう考えた。確かにこうした車で遠くまで行くということは考えにくい。たいてい近所の農家の人が自分の田んぼや畑までトラクターか何かを降ろしに行ったその帰りとか、そんなものであろう、そう言う考えである。が、峠を越え、次の曲がり角も180SXと同じ方向へ行った。

 そして、その次も。

 「イヤな予感がするな。」
 「まさか。最後までって事はないでしょ。」

 そうかもしれない。池谷先輩ドライブとはいえ、峠で速いのがシルビアの強みである。前のトラックは地元車のようで、この道も通りなれているのだろう、確かに速い。しかし、急カーブを伴う峠の上り坂で、マシン特性は如何ともしがたい。トラックの立ち上がりはものすごく遅いのだ。

 「くそっ、何とかしてくれ!」

 黒煙を浴びながらトラックの後に続く。

 「なんか、あのトラック、ペース上げたんじゃない?」
 「アオったと思われたかな。だが、必要以上に接近して走ったわけでもない。ま、ペースが上がったのは望ましいことだが。」
 「ヤバくない?」
 「平気さ。ゲリラボに対して何かしようって言う人間じゃなさそうだ。」
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 峠を越え、下りではトラックとは思えないスピードで駆け下りている。無論、これに遅れをとるようなドクターうるふではない。つかず離れずの一定の距離を保ちながら、トラックの後ろを走行する。下りセクションが終わり、交差点に出る。

 「どっち?」
 「行きたいのは真っ直ぐだが......。看板に拠れば右に行った後すぐまた左に曲がれば直進と同じ結果が得られそうだ。」
 「トラックはどっち行くかな?」
 「左高崎ってあるけど......左行ってくれねェかな。」

 果たしてトラックは。

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「右かいな!」
「離れらんねェのかよ?!」

 その後、このトラックもすぐに左折し、ドクターうるふの180SXの前をいつまでも走りつづける。道は再び峠道。両脇に梅林が広がっている。その間のわずかな直線を、明らかにムキになって飛ばしてゆくトラック。再び黒煙を浴びる180SX。と!

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 「あっ!」
 ゆみごん社長が声と同時にカメラを向ける。

 「見た?!」
 「見た。」

 前のトラックが、窓から空き缶をポイ捨てしたのであった。無論、そのような一瞬の出来事を、撮影速度の遅いデジタルカメラで撮影できるはずはない。茂みに向かって、勢い良く缶を放り投げたのである。対向車線を超え、空き缶は葛の茂みに落下した。

 「ムカつくな。」
 「ああ言うのってさ、拾って行って『落としましたよ』って返してやりたいよね。」

 やり場のない怒りが、180SXの車内を包む。なぜ、あのようなことが出来るのであろうか。ナンバーをつけて走っていると言うことは、名札をつけて走っているのと同じ事である。その車から、ダメと分かっているポイ捨てをするというのはまったくもって信じられない。あの窓から空き缶を捨てるのと、少しの間車の中に缶を置いておいて、どこかきちんとしたゴミ箱に捨てることと、どれほどの差があるだろう。

 「アオっちゃえば?!ム化つくよ、あのバ(ピー)トラック。」
 「それとこれとは関係ないだろ。」
 「でも、あんな悪いやつなんだから、アオっちゃったっておあいこだよ。」
 「オレはそのつもりは無いけど、向こうはもうアオられてる気になってんじゃないのか?現状に変わりは無いさ。」

 そんなことをしなくても、十分に間に合う。これがドクターうるふの答えだった。確かにドクターうるふも今のヤツの行動には許しがたい念を抱いた。しかし、だからと言って直接の被害を被った訳でもない後続の180SXが彼に対してどうのこうのするわけには行かぬ。複雑な思いの中、トラックと180SXの間隔をそれまでの半分ほどに詰めた。

 「ずいぶん詰めて走るじゃん。

 満足そうなゆみごん社長である。

 「まだ、ぜんぜん安全圏だ。大体、180SXでトラックアオるなんてナンセンスだぜ。」

 下りセクションに入る。ここぞとばかりにトラックはペースを上げるが、ドクターうるふもその隙間を全く開かせない。コーナーにあってはドクターうるふにとってはお遊びであった。雨上がりの路面が、程好い低ミュー路を生み出している。

 「ドリフトしたいっ!!でも池谷先輩はドリフトできない!」
 「そ。少なくともこのときはね。5巻212ページに『本当はまだケツが流れるとパニックになっちゃうんだよな』ってある。だからグリップで走らなきゃダメ。」

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 榛名町内で2度の峠を越えると、180SXは橋に出た。例のトラックもまだ、180SXの前を走ったまま、道を違えようとはしない。

 「この車、もしかしたら国道18号まで行くんじゃないのか?」
 「しかも結構走り慣れてるみたい。」

 つまり、この車の後を着いて行けば、最短コースで国道18号に出させてくれるかもしれない、と言うことだ。

 だが、それは憶測でしかない。たとえ国道18号に出たとしても、18号を通って軽井沢方面に行きたいのか、高崎に行きたいのかで18号に出る位置もだいぶ変わってくるはずだ。我々としても最終的に国道18号に出るが、それがおぎのやへの最適な場所でなければならない。しかも、そのためには18号に出るまで、コイツの後ろをずっと走らなければならないのだ。

 「かも......な。だが、それだけでこの車についてゆくわけには行かない。」
 「そうだよなぁ......。」
 「妙義さえ見えりゃぁなぁ。見当もつくんだが。」

直進、安中市の表示がある。このまま行けば安中に出ることができることは間違いなさそうだ。

 「安中って言うと高崎に近い感じもするが、オレの方向感覚では直進で問題ないはずだ。」

 180SXは再び峠道を登り始める。前を走るのは件のトラックである。相変わらずトラックにしては相当速いが、180SXと比べるのは論外である。しかも彼はスポーツカーに引けを取らない(と勘違いしている)走りに陶酔しているらしく、その陶酔感を長時間持続したいがために、ドクターうるふがコーナーで抜かすことができないように、わざとブロックラインを走行している。右カーブでは完全に対向車線にはみ出している。

 「そんなことしなくったって、別にぬかしゃぁしねぇよ。」

 前のトラックの熱さとは裏腹に、ドクターうるふはきわめてクールであった。もう、諦めたのか。

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 「安中市だって。」

 ゆみごん社長が言う。道は峠を越え、視界が開けた。18号か。しかし、降りて行くドクターうるふの前には依然として、田園風景が広がっていた。まだである。時刻は既に15時13分。あと17分である。あと17分でこの迷宮を脱し、国道18号に出て、おぎのやまで到達しなければならない。前のトラックを除いては、道には誰もいない。件のトラックは、直線では一般道とは思えない速度で疾走していた。

 無論、ドクターうるふも彼のこうした走行は歓迎である。彼は今、池谷先輩なのである。真子ちゃんと逢えるか逢えないかの、人生の勝負なのである。2台の車はまるでそこが高速道路であるかのように、-いや、高速道路でも検挙されかねない速度で- 田園地帯を疾走した。

 「ちょっと不安定なんじゃない?」
 「オレか?」
 「前の車。」
 「確かに。まだ路面も濡れているしな。」

 そう言えば、今のくだりが記憶にないわけではない。そう、真子ちゃんと池谷先輩が軽井沢でデートした帰りの碓氷峠である。真子ちゃんの秘密が池谷に明かされる、悪夢の瞬間のほんの少し前の出来事だ。健二先輩の180SXに同乗していた拓海が健二先輩に「ちょっと離れたほうがいい」とアドバイスするのである。池谷先輩は真子ちゃんに「ドリフトができる」とウソをついてしまったため、ここで少し攻め込んでいたのだ。ここで拓海の言うとおり、池谷先輩駆るシルビアはケツが出たことでパニックになり、スピンしてしまうのだ。

 「池谷先輩、こんなスピード出せないかな。」
 「カーブでは出せないかも。1度スピンしてるわけでしょ。碓氷で。」
 「事故ったら元も子もないって、判断できる状態か、それとも夢中で突っ走ってるか......?」

 わかりはしない。が、基本的にグリップということで、タイヤの鳴らない速度での走行に徹した。トラックもまた、松井田方面へと向かっていった。依然としてドクターうるふと道を違える様子はない。

 「あ。」
 「どうした?」
 「安中榛名駅だって。」

 ドクターうるふは答えなかった。トラックは誰もいないが確実に赤の信号を無視して突破しそのまま消えた。ドクターうるふが先頭にたった交差点には、秋間梅林直進の表示が立っていた。

 「現在位置がわかっちまったぜ。」
 「どこ?何時につける?」

 ドクターうるふは左手に見える尾根を指差して言った。

 「あれを越えれば18号だ。時間内に着けるかどうかは......。」

 信号が青に変わる。ドクターうるふがクラッチをつなぐと、180SXははじき出されたように飛び出した。

 「時間内に着けるかどうかは?!」
 「......ギリギリのところだ。」

 時刻は15時18分。後10分あれば、状況によっては何とかなるかもしれないと思った。
 この峠の向こうに、国道18号がある- そう言う想いで峠を越えた。しかし。続いていたのはまだ田園風景だった。

 「もう一山あったか......。」
 「まだなの?18号。」
 「まだだった。もう一山あるらしい。」

 ドクターうるふは「松井田」と書かれた方へ進んだ。看板が出るとどうしてもそれに負けてしまう。現在位置を見失い、本能で目的地に向かうとき、あるときは本能に従い、またあるときは看板に従うというパターンが最も良くない。たとえば今回のように、良く知らない土地ではこの看板がさしている松井田とは、ドクターうるふの行きたい松井田であるとは限らない。松井田町がいったいどのような形をしていて、この表示が松井田に入ることを目的としているのか、松井田の市街地を指しているのか。また、この表示は基本的に松井田町内に入ると出なくなってしまう。漠然と看板に従っていただけでは松井田町に入ってから迷うという可能性もあるのだ。

 が、ドクターうるふはそのミスを犯した。今まで信じ、冴え渡っていた自らのカンを捨て、道路標識に従ったのだ。押し迫る時間のなか、ドクターうるふの心の中にも不安が広がっていたのである。恐らく道を知らない池谷先輩がこっちのルートを通ったとしても、そう言う不安と戦ったに違いない。少なくとも表示にウソはない。そのわずかな安心感のために、自らの信念を曲げた。

 本当にこれで合っているのか?ドクターうるふは自問自答した。今オレは、国道18号と平行して、いや、わずかに18号から離れるようにして走っているような気がする。このまま行けば、18号からどんどん遠ざかって行く......。しかし、相変わらず標識には松井田直進とある。行くか、曲がるか......?

 迷いながら、ドクターうるふは次の交差点も表示に従い、直進した。

 松井田って、どのあたりが中心地なんだろう。18号の北側か、南側か......。北側だとしたら、そしてこの表示の指す場所がそこだとしたら、この道は18号に出ることなく終わることになる......。

 オレは左だと思う。左に見えるあの尾根を越えれば、今度こそ18号がある。

 交差点が近づく。ずいぶん青が続いている。そろそろ黄色に変わるだろう。直進か、左折か。真子ちゃん、教えてくれ!-

「よし、左だ!」

 看板ではなく自分の信じる道を行く。恋愛とはそうしたものだ。「行かなきゃクビだ!」と言った店長の精神が、今うるふには本当にわかったのだ。言葉では理解していたが、本当にわかったのは今このときであった。既にこれは1時間で行けるかの勝負ではなくなっていた。

 恋愛と言う勝負に勝つ者。一人の女性に認められるのはたった一人の男。その判断基準は完全なる女性の独断であり、常識も理論も理屈もない。意中の女性の、完全なる個人基準のみで合否が確定のみ。で、あるならば-

 自分の信じる道ぶつかって行くのが良い。着飾ることもせず、格好つけることもしない。素の自分を見てもらうのだ。

 自分の信念を捨て、他人が設置した標識に従って敗北したら、後悔してもしきれるものではない。逆に選ばれたとして、それは「お前」か?

 15時25分。その判断の結果は、2分後に判明する。


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【基本タイム】

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「ハイオク......満タンだ......」

 「マンガと同じこと言うなよ。アホかと思われてるぜ。」
 「やっぱ、このセリフで行かなきゃダメだろ。」

 実際はこのような会話でやり取りされている。ゆみごん社長は女性ではあるが、このくらい言葉遣いが汚い。事実のみを読者に知らせるのが本研究所の責務であると認識するものであるが、女性であるゆみごん社長がこのような言葉遣いでは読者がドクターうるふの発した言葉と間違える恐れがあるため、女性らしいセリフに改ざんしてお届けしている。予めご了承願いたい。

 「この高速の時間を基本タイムとしよう。池谷先輩が渋滞に要した時間はこのタイムを参考に割り出そう。マンガのセリフから想定した約1時間が正しいのかどうか?」

 そう言うとドクターうるふは11時8分、出光を出発した。

 出光を出て渋川駅方面へ向かう。

 車は先ほどよりも多い。渋川駅前を右折するとすぐに、渋滞に遭遇した。国道17号に出る信号から続いているようである。

 「結構あるぞ。池谷先輩はこの渋滞には遭ってないだろうな。」
 「青、短ぇなー。ほとんど行けてねェじゃねーかよ。」

 確かに。何台通過できているのか、列の中から確認することはできないが、青の時間からしてそれほど多くはなさそうである。信号を見ることができるこの位置からでも、さらに後3回ほどは掛かりそうな勢いである。

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「真子ちゅわ~ん!!」

 180SXはすぐにあの歩道橋の下を通過した。道路は比較的空いている。池谷先輩の出発した午後8時30分ごろと言うのもおそらくこの程度の車の量であったと推測される。

 駅前交差点を右折。上越線の下をくぐり、国道17号へ。道が2車線になる。
 「インター入り口までのわずかなだが、ブチ抜くぜ。」
 ドクターうるふはフルブーストで加速する。

 「ちょ、ちょ、ちょっとまって。」
 「なんだよ?!もう一台抜けるのに。」
 「池谷先輩のシルビアって、ターボ?」
 「......じゃぁないだろうなぁ......。」減速するドクターうるふ。
 「じゃぁ、ダメじゃん」
 「そ、そうだな。健二先輩じゃないもんな。いっくら急いでも過吸はしないようにしよう。」

 180SXは、渋川伊香保ICの料金所へと入っていった。パワーウィンドウの効かない180SXで器用に自動発券機からチケットを受け取るドクターうるふ。

 「ドア開けてチケット取るのって、結構難しーンだぜ。」

 「でさー、どうなん?下から行った方が早いわけ?時間的には?」

 「ふっ‥。」
 ドクターうるふは右ウィンカーを出して、追い越し車線に入る。流れについて行けない車をあっさりとパスしながら言った。
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 「一般道がもたらす最大の恩恵は安さなんかじゃなく‥目的地まで理想的な直線コースが描けることこそ生命線。高速を使う車をブチ抜くことが一般道のカタルシスなら‥、オレは一般道を行く者に脈々と流れ続けている孤高のスピリッツが好きなんだ‥。」(出典:5巻78ページ)

 「は?」

 先程までの雨は止み、路面は既にドライへと変化し始めていた。高橋兄弟ばりの高速クルーズで180SXは関越自動車道を南下する。

 「こういう時って、何kmくらい出すかな。池谷先輩なら。」

 「わからないな。でも、オレならリミッターまで出すね。そうでないとダメだったとき、後悔することになる。だけど、常にリミッターじゃぁ、走れないだろうからな、物理的に。平均で言ったら、このくらいじゃないのかな。」

 そう言うドクターうるふのスピードメーターは1○0km/hを指していた。

 高崎JCTを過ぎたのは11時31分。23分が経過している。この先が藤岡JCTとなる。
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「真子ちゅわ~ん!!」

 「何、なりきってんの」
 「やっぱ、なりきらないと。そのときの池谷先輩の気持ち作んないとさ。オレはそのときの走りはできないと思う。」

 「結構早くない?高速。」
 「それを言われるとつらいぜ。実はオレもそう思っていたところなんだ。だが、ここからは結構かかると思うんだがな。」

 上信越自動車道は藤岡ICを経由するため、目的地の松井田妙義へ行くまでにかなり南まで行ってしまう上に、下仁田をも経由する。どう見ても効率のよいルートとは言えないのだ。ドクターうるふは、そこに賭けている。
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 だが、確かに予想以上に早く着きそうなことは否めなかった。Navin'youでのルート検索結果は出発地をあの出光に設定して再検索すると1時間1分。実際はもう少しかかるかと思っていたのだが。

 「このまま行くと1時間は、切るな。」

 再び降り出した雨の中、ドクターうるふはなおも池谷先輩になりきって、高速走行を維持している。180SXが跳ね上げた水しぶきは高々と舞い上がり、空を覆う雨雲と同化して行った。

 車は甘楽PAに差し掛かった。ドクターうるふは減速する。

 「何?着く時間を遅くしようってワケ?」
 「そうじゃぁない。甘楽PAの入り口と出口の間にオービスがあるんだよ(1999年当時。現在は撤去されているようだ)。この速度で行ったらさすがにヤバイからな。」

 サンバイザーも下げ、万一の場合には顔が写らないようにするドクターうるふ。念には念を入れている。

 「自動速度取締機設置路線の青い看板があっただろ。最初1枚出て、1kmくらい走るともう一枚出て来るんだよ。そうするとそこから1kmくらいのところにオービスがあるわけ。東名高速など、一部そうでないところもあるけど、たいていこのルールで設置されてるようだ。基本パターンとして覚えておけば、初めての場所でもオービスに引っかかる確率はぐんと下がるぞ。」

 甘楽PAを過ぎたのは11時44分だった。渋川を出てから36分が経過している。

 ドクターうるふは、アクセルを抜きたいというもう一人の自分を必死で押し殺していた。このコースにかかった時間が基本タイムとなり、次に走る一般道はそれを超える速さで走らなければ、池谷先輩が真子ちゃんに会えることはない。この実験を成功させたいのなら、今、遅く走れば良いのだ。先程ゆみごん社長が「着く時間を遅くしようってワケ?」と聞いたのは、そう言う意味がある。

 が、もちろんそれはできない。ゲリラ実験室の精神がドクターうるふのアクセルを踏む足を弱めさせなかった。たとえ実験に失敗しようとも、すべてを事実として公表する- これがゲリラ実験室の基本理念である。自らの推測を立証させるために、真実を曲げることは許されないのだ。

 雨は止み、路面も徐々にドライへと変わっていった。時間によって降ったり止んだりを繰り返しているのか、それとも場所によってなのか。いずれにしても日本列島に近づきつつある台風11号の影響であることは間違いない。ドライ路面とウェット路面を速いテンポで繰り返すドライブとなった。

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「妙義、どれかな。」

 妙義山にかなり近づいてはいるはずだが、どの山も雲に覆われてその姿を見ることができない。神々しい奇岩ひしめく妙義山は松井田妙義ICが近づいたことを実感させてくれるのだが、今日は事務的な標識だけを頼りにその感覚を味わうしかないようだ。

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「松井田妙義だ。下りるぞ。」

 最後の最後まで追い越し車線を走行し、ギリギリで左車線に入るドクターうるふ。そのままの流れで走行車線を突っ切り、減速車線へと入ってゆく。ほとんど誰も走っていないから良いようなものの、他車がいたら決して安全とは言えない走行である。

 「真子ちゃんが待ってるんなら、このくらいやるだろ。」

 無論、減速車線で40km/hに落とすことなどない。料金所ギリギリまで高速走行を維持する。

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 領収書を受け取るのと同じにダッシュ。が、下りてすぐの信号にかかる。急いでいるときの信号ほどもどかしいものはない。池谷先輩もこの気持ちを何度となく味わいながら、この道を走って来たに違いない。

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 青になるや否や、スタートする。右に曲がって、右手に上信越自動車道を見ながら、坂を下りてゆく。真子ちゃんの待つおぎのや駐車場までは信号にかからなければあと5~6分と言ったところだろう。

 180SXは国道18号に出る信号(交差点名:五料)にかかり、その後は車の列の最後尾を遅いペースで走った。先程までの高速走行のペースが体に染み付いており、時速60kmで走っていても遅く、じれったく、まどろっこしく感じる。

 「真子ちゃ~ん!」

 叫んでみるが、状況に変化は見られない。おぎのや直前の信号にもしっかり引っかかり、到着したのは12時5分。所要時間は57分であった。

 「とはいえ、思ったより早かったな。池谷先輩の言う『1時間以上』ってのはちょっと多めに言ったのか。夏とはいえ、夜の9時近い時間で、上信越道を長野方面に行く車ってあまり多くないだろうから、ま、事故渋滞つっても15分か20分だろうな。」

 「っていうと1時間15分程度が池谷先輩のかかった時間って想定できるワケね。」
 「予想では、な。」

 ドクターうるふは、即座にエンジンを再スタートさせた。
 「よし、戻るぞ。今度は一般道だ。」




【なぜ、高速?】

 ドクターうるふとゆみごん社長は渋川まで戻る間、そもそも池谷先輩はなぜ、迷いもせずに高速道路を使ったのかと言うことに関して議論していた。

 「やっぱ、間違いないからだろう。池谷先輩は始めっから真子ちゃんとの待ち合わせ場所に行く気がなかったから、一般道で行く下調べなんてまったくしていなかったんだろうな。そこへ店長にいきなり言われて予定外に行くことになったわけだ。池谷先輩の頭にも『一般道で行った方が......』という考えは浮かんだとしても、一般道は結構難しい。だからその賭けには出られなかったんだろうな。確実に着ける高速を選んだんだろう。」

 「渋滞の危険性はあるけれど、迷っちゃったらサイアクだもんねェ......。」

 が、ドクターうるふはストーリー性を逸脱した、現実的な面も指摘する。つまり、読者へのインパクトである。

 渋川からおぎのやまでの道すがら、池谷先輩は真子ちゃんへの思いをより一層強めて行くシーンがある。店長に指摘されたアドバイスを元に今までの真子ちゃんの池谷に対する態度を洗いなおし、自分の至らなさを悔やむシーンだ。

 この背景として書くのであれば、やはり高速道路の方が親しみやすい。出てくる地名は有名で、位置関係がわかる読者も多かろう。

 「天使を地上からつれ去らないでくれ‥」
 とか言っている背景に「榛東」や「箕郷」の地名があっても、ほとんどの読者はその位置関係を正確に知る事ができず、臨場感に浸ることができないだろう。しげの秀一にはそう言う不安があったのではないか。

 現に、中里と啓介のバトルをギャラリーしに行く際、拓海とイツキは一般道を通って妙義まで行っているが、その際のシーンはほとんど景色が紹介されずに終わってしまっている。この辺りの景色を描いても、共感を持てる読者は少ないと判断したのだろう。

 また、レッドサンズの連中が遠征するにもほとんど高速が使用されている。前橋から妙義など、確かに高速の方が早いだろうが、普通なら一般道で行く距離である。とくに『タイヤが減らない雨の日は朝まで走っている』というケンタなどは絶対に一般道から行くべきなのだ。
 にもかかわらず、高速道路を使うと言うのはやはりしげの秀一のこうした意図がこめられていることは否めない。

 「言えてるかも知れないなぁ。」
 「だからさ。池谷先輩が高速を使ったのは、純粋にストーリー上の問題だけではないかもしれないってことさ。」


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 「ねぇ、これ、おかしいと思わない?」

 ゲリラボ本部に来ていたゆみごん社長である。書架においてあった頭文字Dをごっそりもって来て読みあさっている。彼女はこうして時々ゲリラボ本部に現れては不可解な行動をとって帰ってゆく。本当に社長なのだろうか。

 「お、頭文字Dか......。最近オレ、読んでないな。で、おかしいってのは?」
 ドクターうるふはキャスター付きの椅子をスライドさせて、ゆみごん社長に近づく。頭文字Dの6巻を手にしている。

 「何で池谷先輩はさぁ、高速道路使って真子ちゃんに会いに行ったんだろう......ってね。」
 「確かに......。渋川から横川なら、オレは下から行く、な。」

 「MISSION2でやった、高速対一般道では熊谷(埼玉県)から勝沼(山梨県)だったじゃない?さすがにあれの場合は私も高速の方が速いと思ったけどぉ。これは私も下道だと思うんだよね。」

 パソコン上の地図で確認するドクターうるふ。

 「改めて地図で確認してみても、これなら絶対下の方が速いね。見なよこれ。関越を藤岡JCTから上信越で松井田妙義まで......こんなに遠回りだぜ?」

 「やります......か?」
 「やろう、上対下の検証。しかも今回は、頭文字Dのストーリー付きだな」




【所要時間】

 ドクターうるふたちがこの実験をするにあたって最も難儀したのはスタート点をはじめとするのルールの設定であった。今回はさまざまな条件が重なり、MISSION2のような同時スタートを切って競争することができない。

 車をもう1台、用意できなかったのである。

 「すると1台の180SXで両方のコースを走って、タイムアタック的に実験するしかないな。」
 「ま、そうするしかないね」

 ドクターうるふは頭文字Dの6巻を手に取り、ゆみごん社長に見せる。

 「183ページを見てくれ。ここに興味深い情報が載せられている。」
 「池谷先輩のセリフ、『ここから碓氷峠まで、1時間以上かかるし......』よね?」

 時間的な情報は多くない。真子ちゃんと池谷先輩との待ち合わせはおぎのやの峠の釜めしの駐車場。道を挟んだ横川駅川にある駐車場。待ち合わせ時間の8時には既に眞子ちゃんが到着している。

 池谷先輩が店長に言われてスタンドを出るのが8時30分。池谷先輩の計算だと9時30分過ぎに到着する予定である。が、神に見放されたのか、藤岡JCTを過ぎたあと、松井田妙義まで間のどこかで渋滞に遭い、予定外の遅れを喫することになる。

 池谷先輩が到着する1分前まで真子ちゃんは居た、と明記されているものの、実際に池谷先輩が何時におぎのやに到着したのかは不明である。

 渋滞の原因も明記されていない。池谷先輩が『事故かぁ?』とは言っているものの、それは渋滞の最後尾を見た池谷が「事故か?」と予想しているだけで、本当に事故渋滞なのかは記されていない。

 従って、登場人物のセリフなどから推察する頼りない時間をもとに実験を進めてゆくしかなくなってくる。

 ここで注目したいのは池谷先輩のセリフ、『1時間以上』である。2時間でも3時間でも「1時間以上」の条件には適合するが、「1時間を越え、1時間30分前後の時間を看ている」と予測するのが妥当だろう。

 マンガからも分かるように池谷先輩は決してうまいドライバーではない。しかし、池谷先輩は「2度とない」チャンスをものにしようと必死に走っている。遅くする要因と、速くする要因がひとつずつある。これがもし高橋涼介や中里毅などであったら、車種のこともあるし、b時間を書けたに違いない。

 「1時間以上」と言うのは現実味を出しながらも詳細はうまくぼかす作者のテクニックであると考える。

 で、試みに渋川駅前の交差点からNavin'youを使用してルート検索をしてみると、70km59分と出た。

 「......なーるほどねぇ......。そうすると池谷先輩はだいたいどのくらいで到着したのかしら。」
 「あくまでも予想の域を出ないが......。普通なら1時間、渋滞の影響で1時間半前後で到着したんだろう。池谷先輩は30分遅れで出発しているから、真子ちゃんは最大で2時間前後、待っていたと思われる。」
 「ヒールで2時間立って待ってりゃぁ、足も痛くなるわな。」

 「後は出発地の設定だ。それによって若干時間も前後するだろうからな。」





【スタート地点】

 頭文字Dには実際に存在する景色が数多く登場し、一見リアルに見えるマンガである。が、そのリアルさゆえに、今回はかなり翻弄された。

 池谷先輩が働いているESSOは渋川市内には実在しないと言うのが一般的な見方である。池谷先輩が働いている中央石油が他の都市に存在することが、熱心な頭文字Dファンの間ですでに判明しているからである。

 となると、この実験ではマンガの中のやり取りから渋川市内の架空のガソリンスタンドからスタートしなければならない。

 「頭文字Dでは『渋川のスタンド』とあるから渋川市内っていう条件は絶対だな。」
 「マンガでは場面が変わるとき、いきなり変えずにその近辺の景色を何コマか入れてから場面を変えるけど、頭文字Dでも池谷先輩が勤めるスタンドに場面が変わる前、この手法を多く利用しているよね。」

 「そう。それがここだ。」

※1999年撮影
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 「木の曲がり具合まで、徹底的に同じね。」
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 「そう。当研究所の調査によれば、頭文字Dの第1部では、他の場面から池谷先輩の勤務するESSOに場面が移るのは全部で100回ある。そのうち、この渋川市役所前からが4回ある。」

 「でもこれ、どのコマも完全に同じじゃない?標語も、走っている車も、ワイパーの角度もまったく一緒。」

 「だから、コピーして使ってんだろ。」
 「普通、車だけは描かないでおいて、後から書き足さない?」

 「ま、そうだよな。でもさ、意識的にESSOの前にこのシーンを持ってきてるとも言える。この景色の近くにスタート地点があるってことなんだよ。」

 「この道は渋川の駅前通り。このまま直進すれば、秋名山、つまり榛名山の峠に行けるわけね。1巻の176ページには『それっぽい車が上がっていく』姿をESSOのスタンドから店長が見て、『今夜は峠でひともんちゃくあるな』って言ってる。このときの「それっぽい車」と言うのは他の峠から来た車。地元以外の人が榛名山に向かう道と言ったらこの駅前通りしかないと思う。このあたりから判断してもスタンドはこの道沿いのどこかね。」

 「このほかにもメガネ屋前やJUSCOのシーンからESSOに移っている。」

JUSCO前(1999年撮影)
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 「信号とか道路の白線が完全一致。」
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 このほか、渋川市役所にほど近いNTT前が8回、渋川駅前が4回、出光が1回。

 「今言ったのはどういう共通性があるわけ?」
 「どこも渋川駅の駅前通り。100回のコマ移動のうち、きちんとコマが埋められているのは39回。それ以外はただコマがスクリーントーンなどで塗りつぶされているだけだ。」

 「つまり、39回のうち、市役所前が4回、メガネ屋前が1回、JUSCOが5回、NTT前が8回、渋川駅が4回、出光が1回......渋川駅前通りがらみが23回を占めているってわけね。」

 「そう。実に56%が渋川駅前通りなんだ。しかも、イツキがハチゴーを買ってしまったとき、池谷先輩と健二先輩がイツキをしてしまい、耐えられずにイツキが走り出すシーンがある。これを拓海が追いかけて行って、イツキに追いついたのがJUSCO前なんだ。」

 「走って追いつくんだから、そうバカみたいに遠くまでは行かんわな。JUSCOのすぐ近くにESSOがあることになる......。」


「で、これらの位置から無理なく予測できるのは......」
「この出光ってわけね。」

 「そう。ジャスコから伊香保方面に20~30mと言ったところだ。」
 「でも、ESSOが描いてあるシーンには向かいに必ず高いビルが入ってる......。この出光の場合は向かいはローソンになってるけど。」

 「ところがさ。しげの秀一の場合、木の曲がり具合や看板、広告の文字まで全て正確に再現されているのを見ると、おそらく写真か何かに撮ってきたものをそのまんま、アシスタントに描かせているんだろうな。でさ、このESSOは渋川市以外のどこかの都市に実在するらしい。」

 「つまり、ESSOといっしょに描いてある背景はそっちの背景ってこと......?」
 「そう考えるのが自然だよな。つまり、背景は実際と同じ物を描いているけれど、それは写真に撮ってきたものをそのまま描いているからであって、必ずしも位置関係とリンクしているわけじゃぁない。むろん、あまりそっくりに書いてしまうとマズイ部分もあるからだとは思うが。
 ESSOと同じコマに描いてある背景ではなく、その前のコマを参考にした方が良いって言うのは、そう言う理由からだ。」

 「そうねぇ。そうするとやっぱりこの出光が最も妥当な位置かもしれない。回数から言ってもそうでしょ。ここがスタートで良いんじゃない?」



1999年、秋。
ドクターうるふはとある組織を発足した。

目的は見過ごされている、
180SXの持つ「速さ」以外のポテンシャルの追求。
-その組織の名は-

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「ねぇ、これ、おかしいと思わない?」
「何で池谷先輩はさぁ、高速道路使って
真子ちゃんに会いに行ったんだろう?」

ゆみごん社長
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ドクターうるふ
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何も高速料金払っていくところじゃない。
もちろん、オレは下から行く。
人気マンガ、頭文字D
誰もが抱いたその疑問に、いよいよゲリラ実験室のメスが入る!



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「木の曲がり具合まで、徹底的に同じね。」

とことんまでストーリーにこだわり、忠実な再現映像でお送りする!


「真子ちゅわ~ん!」

ドクターうるふ扮する池谷先輩が、
一般道で真子ちゃんのもとへ!

「つまり‥‥、そういうこと?
あたしに‥女として
魅力がないってこと?」
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これは一体、マンガか?!写真か?!
かつてないスタイルでお届けする、驚愕の実験報告!!



ゲリラ実験室、MISSION9。
20年前のWeb記事を忠実に再現!

下から行けば間に合った?
神様が与えたワンモッチャーンス!

頭文字Dの1~6巻を熟読して待て!


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予想外の障害

「路駐がいるよ!」

 助手席側の窓に顔を押し付けるようにしてゆみごん社長が報告する。

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 「ここで路駐かよ?」

 こちら側車線なので、対向車線が優先である。次々と来る対向車が180SXの右側をかすめて伊香保温泉街の方へ向かって登って行く。

 180SXの前にいた何台かは対向車の微妙な切れ目をついてやり過ごしてゆく。そして、いよいよ180SXが先頭になった。後ろには長い車列ができていた。

 「待てよ、待てよ~......」

 ドクターうるふも慎重である。対向車の切れ目を予測してブレーキを離さなければこの駐車車両をパスできない。しかし道が微妙に右に曲がっており、あまり先も見通せない。

 「アクセルっていいよなぁ。考えたやつ天才だよ。」

 エンジンで加速できるなら行けるタイミングはあったが、惰性走行ではムリ。躊躇してなかなか進めない。後続車は初心者だと思っているだろう。

「これ以上はムリだ。ここで行くぞ。」

 ブレーキを離す。180SXはゆっくり加速し、対向車線に車体半分ほど飛び出す形となった。対向車が迫る。

「早くしてくれ~、速く行ってくれ~。」

 体の自由が利かないバケットシートの中で、必死にもがくドクターうるふ。シートがギシギシきしむ。どうやら漕いでいるつもりらしい。

 対向車も速度を落とさない。このまま突破して来る気だ。

 「車の下見てくれ。人、居ないか?!」

 駐車車両の下に人の足が見えれば飛び出してくる可能性がある。

 「居ない。大丈夫。」

 運転席にも人影は見えないのでこの車から降りてくる心配もない。180SXを駐車車両ギリギリまで寄せる。

 駐車車両を追い越している最中、対向車とすれ違った。

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 上の写真は180SXの右側をかすめる対向車を撮ろうとしたようだが、フレームアウトしてしまった。しかし写されたインパネからそのときの状況がうかがえる。速度は時速15km程。回転数は当然アイドリングの回転数だ。

 駐車車両はうまく追い抜いたが、そのあと速度が上がるまでの時間は数十秒なるも、絶えがたいものであった。

 「予想外の場所でてこずったね。」

 ゆみごん社長がため息混じりにもらす。


新ルート

 「こっから......だな。」

 左ウィンカーを出し、路地に入ってゆく。ここからが新しいルートだ。正面には渋川工業高校のグラウンド。緑色のネットが高くそびえている。
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「なんだ? 車庫入れか?!」

 狭い路地を完全に塞いで車庫入れをしている。生活道路でしかも狭いから無理もないが、2回ほどやり直している。ほとんど停止した状態まで速度が低下したが、後続車もなく、車庫入れ完了を待って再スタート。

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「せめぇ~!当たる~!!」
(ゆみごん社長)

 渋川高校を過ぎて、更に狭い路地に入ってゆく。石の壁が左右に迫る。バックミラーと壁がわずかの隙間しかない。車体から出ていないエアロミラーだから通れる道だ。

 真正面は工事中の道。タイミングさえ良ければ停止せずに大通りに出られる。

 通りに出たら左折したい。ドクターうるふから見て右方向へ行く車が溜まっている状態であれば問題なく左折できる。

 「どうだ?行けるか?」

 誰に問うともなく叫ぶドクターうるふ。なんと、運良くドクターうるふから見て左方向へ行く車が切れた瞬間。この後につけば難なく行ける。

 「警備員、誘導してくれねェかな?」

 調査段階でこれに似た状況になったとき、路地から出ようとする180SXを先に行かせてくれたケースがあった。ここでそれをやってくれればこの後のわずかな登り区間をパスできるかもしれない。

 「行かせてくれー、行かせてくれー。まずオレを、行かせてくれぇ!」

 警備員にもの欲しそうな目線を投げかける。路地から出るまで後5m。警備員と目があった。

「いい?行っていい?」

 聞こえるわけないのに車内で叫ぶドクターうるふ。目線でそれを補おうと先程より熱い視線をおくる。

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が、その想いは棄却された。

 警備員は無情にも目をそらし、ドクターうるふから見て右方向へ行く車の通行を、彼は許可したのだ。

「ここで止まるわけには行かん!」

 左から右方向への通行が始まった。今なら右から左へ行く車はない。左折できる。

 と!

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ガガガッ!!
「クソッ、乗り上げた!」
「止まる、止まるーっ!!」

別な角度からの映像。 左に寄せすぎ、ボディの左側、前輪と後輪の間が歩道に乗り上げたようだ。一気に減速する180SX。後輪がせり上がり、激しい衝撃とともに着地。ボコン!という、マフラーをこする音がそれに続く。

 目の前にある「金井南町」交差点は青。今なら行ける。しかし、速度はほとんどない。それもそのはず、ここはわずかに上り坂。速度は上がるどころか、みるみる減速する。後ろ向きの重力には逆らえず、180SXは交差点の右折レーンで停止した。

 「仕方ない、クラッチつなぐぞ!この20mは同乗していた仲間に手伝ってもらって押したと言う設定にしよう。」

 ここまで来て、終わらせたくない。そんな気持ちで一杯だった。ここを過ぎれば再び下り。この先はまた、惰性で行ける。

 クラッチを静かにつなぐ。すると180SXは前進を始め、坂を登ってゆく。加速を封じられてきたうるふにとって、自力で進むということが魔法のように感じる。

 しかし、それも時間にしてわずか10秒程度。信号右折後、再び惰性走行に入る。ここからはまた下りだ。180SXの走行は再び地球の引力に委ねられた。

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 再び心地よい下り区間が約1km。この先の信号は全て青で通過する。下り具合もなかなかいい。もし信号に掛かっても再スタートは可能だろう。

 前走車につきすぎないよう注意しながら国道17号へ向かう。

「見えたぞ、日産ブルーステージ。」
「おおー、本当だァ!」

 並木の向うに青い看板が見え隠れしている。まぎれもない、日産ブルーステージである。しかし、日産に入るためには国道17号を20m程走行しなければならない。ここもまた完全なる平坦な道だ。

 国道17号への信号で痛恨の2度目の停止。トヨタのディーラーが左手に見える。

 「トヨタディーラーだったら本当に惰性で入れちゃうね。」

 「ここまで来りゃぁ、後は日産の人に何とかしてもらえるだろう。」

 ディーラーは目と鼻の先である。

 信号が青になる。エンジンの力で走行し、日産ディーラーへ。

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「やっと、着いたな......」

 11時17分、戦いは、終了した。

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 2度の停止があったために、到着してもそれほど大きな達成感はなかった。惰性のみでの走行で15.8km、25分間というのは賞賛に値するが、目的を完全に達成することは出来なかった。やはりそれは心残りである。



 「残念だったけど仕方ない。最初に停止したあの登りは、惰性で降りることを決めた時点で、仲間を集めて後追いさせて、あそこは押してもらうんだな。

 しかし、エンジンさえ生きていれば、結構おりれちゃうんだよね。それが分かればこの方法でかなり工場まで近づける。いかに速度を殺さずにコーナーを曲がるかって言うのは峠を走るのにも必要とされる技。うまいドライバーほど先へ進めるだろうね。

 後半の路地の連発は本当、180SXだからこそ行けたって思ってる。リトラクタをオープンにすることで、ものすごく良く車両感覚を掴めるんだ。軽自動車しか行けないような道ばかりだったけど、臆せず突っ込んで行けたのはこの恩恵があったからと言ってもいいんじゃないかな。」

と、続ける。

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 ボディ左下にできた傷が痛々しい。 180SXにキズがついてしまったが。との言葉には、
「また、180SXには痛い想いさせたと思ってる。でも、コイツとまた、大きな記録を生み出せた。勲章だよ、これも1つの。」

 せっかく伊香保に来たんだから、と町営駐車場に180SXを置いて、ドクターうるふは石段街に消えていった。

 この結果がどのように使われるのか、彼は知らない。早く通り過ぎたいと思っていた伊香保が、今度は彼の疲れを癒してくれることだろう。

実験は無事終了し、その結果だけを残して研究員たちはいずこかへ去って行った。
新たな検証が、彼らを待っている。


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 もう、何度目かわからなくなっている榛名山山頂である。ここから新しい日産ディーラーに向けて出発する。

 やることはこれまでと何一つ変わらない。Navin'youの受信を開始し、衛星の補足を確認したところでスタートする。外付けアンテナは20秒程度で4つの衛星を補足。準備は整った。

 「悪いけど、今日は行かせてもらうぜ。」

 ドクターうるふは自分に言い聞かせるように、言った。

 出発時刻は10時47分。前後には前回同様、車は見えない。榛名山エリアは、前にも後ろにも車がいないことが理想的な条件となる。
 たいていの場合、前に車がいると追いついてしまう。動力を使って降りていく車より、惰性で下る180SXの方が速い。遥か遠くの雪を頂いた穂高連邦や赤城山を見ながら下る観光客とは運転の仕方も目的も完全に異なっているのだ。

 前がつっかえると、次は後ろにつかれる事になる。その際180SXはコーナーの立ち上がりで加速できないため迷惑になる。

 しかし、11時になろうと言う榛名山である。そう簡単には行かなかった。スケートリンク入口のストレートで前を走る車を発見、速度を落としつつ峠を下りるが、17番コーナーで追いついてしまった。

 これまでの中でもこの車はとりわけ遅かった。いくら減速してもすぐに追いついてしまう。このままでは後続車に追いつかれる。

 「どうするか...?」

 ドクターうるふの頭には、「やり直し」と言う選択肢が浮かび上がった。今なら傷は浅い。

 ところが、前を走っていた異様に遅い車は17番コーナー後のストレートにある路肩に車を寄せた。惰性走行の我々をパスさせようと言うのである。
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 しかし、問題はまだ解決していなかった。5連ヘアピンで再び前走車に追いついたのである。今度は5~6台の車の列だ。先頭車両を見ることは出来なかったが、助手席に乗っていたゆみごん社長の言に拠れば観光バスだったという。

 いずれにしても、これだけの台数を全部どかすことは不可能だ。しかもこちらは惰性走行。とりわけ5連ヘアピンのような急カーブの連続では速度も出ない。しかもここはそれほど勾配もきつくないエリアだ。

 「かと言って前との距離が離れて行くわけでもない。徐々にだがそれでも近づいてしまっている...。このままで行けば1コーナー立ち上がりの登りでリタイアすることは必至だ。」
 と、ドクターうるふは足ブレーキを踏んだ。ほとんど停止しそうなまでに減速をする。

 「ちょ、ちょっと遅すぎない?後続車が来ちゃうよ。」
 「さっきの車か?まだ来やしないさ。もし来ても、あれだけゆっくり走ってるんだ。ミラーに姿が映ってから対処しても遅くはあるまい。」

 10,9,8,7、その後のストレートと、ドクターうるふはまるで停止しそうなほどの超低速で走行し、前走車との車間を極端に空けてゆく。これだけのことが出来るのも、1年間に渡る走行経験の積み重ねから来る自信によるものなのだろう。

 前を走る車の集団とはかなり距離が離れたはずだ。6コーナーに進入しようというとき、さっきの遅い車が7コーナーから出てくるところをバックミラーで捉えた。

 「これだけ離しゃぁ、行けるだろ。」

 うるふはブレーキをリリース。ゆっくりとした、静かな加速感が180SXに蘇る。2コーナーまでの距離を利用し、速度を回復させる。
 1番コーナーの進入速度は55km。先程より遅かったものの、立ち上がりは先ほどと変わりない速度。最初は悩まされた1番コーナー立ち上がりだが、今はミスすることはなくなった。続く横断歩道もうまく歩行者の切れ目をついた。橋を渡り、伊香保町役場前(編注:現在は「伊香保総合支所前」)の信号は突破できた。

 しかし、それを抜けると次の「伊香保」交差点が見えた。信号は......
「今、赤になったところだぞ」
 これは赤の待ち時間をフルに喰らうことを意味する。交差点から遠い部分は勾配が急なのでここで溜めを作る。

 「待つ」と言うのは非常にじれったいものである。10秒、20秒が1時間、2時間分ものストレスを生み出す。三叉路の変則信号は青になるタイミングを読ませず、ブレーキリリースの瞬間を鈍らせる。すると。

「ア、抜かされた」

 溜めを作ることに夢中で気づかなかったが、いつのまにか現れた後続車が180SXの怪しい走行に痺れを切らし、追い越していったのだった。まずいと思ったドクターうるふはブレーキをリリース。180SXは勾配を下り始めた。信号に近づくにつれ、傾斜は緩む。速度が落ちてゆく。

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「青ンなれ~、青ンなってくれぇ~」

 祈りが通じたか、近づきつつある「伊香保」交差点の信号は青に。

「なんていい色なんだァ......」

 ため息混じりに漏らすドクターうるふ。世の中広しと言えども、青信号の色にしみじみ感じ入っている人間もそう多くはあるまい。
 先ほど180SXを抜かして行った車に続いて180SXも発進、何とか、突破した。

 竹久夢二記念館を左手に見つつ、観光協会前(編注:現在は「ビジターセンター前」)の信号も通過。グリーン牧場前を疾走し、次の「明保野」交差点もパス。正面に赤城山がくっきり見え、渋川の中心地を眼下に見下ろす。
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 と。信号も何もないのに、前の車が次々とブレーキをかけている。

「オイ、何だよ、このブレーキは?!」
「路駐がいるよ!」

 180SXは、前走車に続いてその場で完全に停止した。

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 「うわ、赤ンなっちゃった!」無情にも信号が赤になった。場所は観光協会前(編注:現在は「ビジターセンター前」)である。
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「突破、突破。行ける、行ける。」

 と、強気のゆみごん社長。この人物、自分でハンドルを握らないと妙に強気である。

 「ダメダメ。ムリだよ、これはァ。」あえなく停止する180SX。先頭で引っかかった。

 「またダメじゃん。」

 口を尖らせるゆみごん社長。しかし、ドクターうるふは怪しく口元を緩ませる。

 「そうとは限らないぜ......。」

 反対の信号が黄色になったとき、見切り発進気味にブレーキをリリースする。180SXは重力によって、渋川方面へと滑り出した。信号は青。既に横断歩道中腹まできており、速度はどんどん上がっている。

 「行けそうじゃねェか?」

 低速の期間が少々長かった気もするが、それでも思ったよりはやく180SXは法定速度に達することができた。グリーン牧場前では公には表記できない速度に達する勢いである。

 「いいねェ!」

 疾走......であった。まさにそんな言葉がぴったり来る走り。180SXは音もなく、まるで電気自動車のように榛名の裾野を渋川へ向けて駆け下りた。

 その後、何度か信号にも掛かったが、坂が急なため、全て重力による発進で切り抜けた。

 渋川駅へ向かう三叉路(信号名「入沢」)。道なりに右へ行けばJR渋川駅だ。信号は赤だったが、目的の方向の直線的に進む道(法的には左折)は左折信号がついており、このまま行けた。

 「ヨシ、ここの突破率は高そうだな。」

 渋川工業高校を左手に見つつ、またもいいペースで坂を下りる180SX。しかし、その先のT字路で信号に掛かった。信号名は「建設省前」。

 先頭あたりでかかると平面だが、ドクターうるふ駆る180SXは7,8番目で坂は比較的急な方だ(写真左)。これなら今までと同じ方法で重力発進できる。

 青。いいタイミングでブレーキを離し、ドクターうるふが交差点に指しかかろうとした瞬間。信号は黄色から赤へ。
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「短けェ~!!マジかよォ!?」

 もはや、ダメである。先頭で停止した180SXは完全なる平坦な場所にいた。

 この後、2,3回の挑戦で、わずかな青信号の瞬間に運よく突破できたこともあったが、その先の道はずっと平地が続いており、このルートでの成功は相当困難と判断した。



目的のディーラーを変更する

 「...という結果になった。ハッキリ言って、ゴールが見えない。」

 再び、2000年12月のゲリラボ本部である。

 「コース変えるしかないんじゃない?あの道じゃ、絶対にムリだよね。」

 この実験の日以外にも道の混雑していない時間帯や曜日などを模索し、運よくこの信号を突破した事も有ったが、次の平地で停止するだけであった。

 数回に渡る遠征実験で得られた結果は、この道では絶対にディーラーまで辿り着けない、という絶望的なもの。一方で、熟達するに従って、この「建設省前」交差点まではかなりの高確率で到達できるようになっていたのである。

 「ここまで来れたって言うことをミッションを成果として報告するのではダメ?もう、この地点で既に16kmに達していて、全行程の約88%を既に惰性走行だけで果たしてるんだよ。あと2kmちょっとだったらJAF呼んでもそれほどの距離ではないし、レッカー代はかなり楽になるはず。この結果で十分驚異的な成果だと思うけど。」
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 しかし、ドクターうるふは首を縦には振らなかった。

 「もう、ダメなのか?これ以上努力できるスキはどこにもないのか?たった数回の実験で出た結果じゃないか。渋川に住んでいる人ならもしかしたらもっといい道を知っているかもしれない。彼らには「あの道通れば出来るかもしれないのにな」って、思われるんだぞ。

 それだけじゃぁない。渋川のこれだけの通りの中でJAFが来るまで路駐して待てるのか?だったらこんなアホなことしてまでここまで来なくても、山の待避所で待ってた方がどれだけいいか知らん。かといって、2kmの行程を押して行くのも非現実的だ。」

 「......やっぱりね。負けたよ、うるふには。分かった、トコトンまでつきあうよ。」

これ以上言っても引き下がらないことを、ゆみごん社長はよく心得ていた。

 「ねぇ......」と、これまで黙ってドクターうるふとゆみごん社長のやり取りを聞いていたピパ子氏が口を開いた。
 「日産のディーラーって、こっちにもあるよね?」ピパ子氏は、地図の上の方を指差す。確かにもう1つ、日産ディーラーが存在する。

 「確かに......な。オレ達の調査でも既に2つの日産があることは分かっていた。しかし、道がない。」

 「走ってみたわけ?」ピパ子氏の質問に、ドクターうるふの動きが止まる。
 「いや......。走ってみたわけではない......。Navin'youの地図で確認しただけだ。なるほど、途中から左にそれて渋川工業高校の北側を抜け......ここから抜ける道さえ発見すれば、北側のディーラーに行けるかも......な。」


新しい目的地

 その後、すぐに榛名山まで赴き、新しい日産ディーラーへの道を探した。

 初回から数えて、現地調査は10回以上に達していた。ドクターうるふの惰性走行技術も向上し、渋川市内まではほぼ確実に到達できるまでに確率を上げた。この調査にはピパ子氏が同行し、彼女のサポートと奇抜な着眼点により、ルートは決まった。
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 その結果、図の青色で示された、かなり早い時期から当初のルートを外れ、渋川工業高校の北側を通り、当初とは別の日産ディーラーを目指す道が最も可能性が高いと分かった。最大の難所は一時停止の後の上り坂で約20m。その先は再び下り坂が続き、運がよければその勢いでディーラーに突入することも可能だ。万一、この難所で停止した場合、ディーラーまでの距離は約1kmとなる。

 そして2000年も暮れに近づいたある日、朝5時。ドクターうるふとゆみごん社長を乗せた180SXはゲリラボ本部を出発した。背後から徐々に空が白み始め、右手に赤城山、左手に榛名山がその姿をあらわす。赤城の頂上はうっすらと雪を頂いていた。

 午前7時、渋川市内に到着。ピパ子氏の助言で発見した新ルートをゆみごん社長と確認する。

 「何としても、今日、結果を出したい。これでムリなら、このミッションは失敗として報告する。」
 「結局厳しいね。はっきり言ってムリ。...でも、やるんでしょ?」

 ドクターうるふはそう言い放つと、180SXに乗り込んだ。

 「行くぞ。ホテルに泊まってる客が動き出す前に伊香保を過ぎるんだ。」

 いよいよ、勝負のときは来た!!

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1999年11月

 指令を受けたドクターうるふとゆみごん社長は、群馬県は榛名山へ向かった。

 榛名山頂でミッションが壊れ、動力伝達が0%の状態を想定する。 通常走行だけでなく、エンジンブレーキも使用不能。 この状態で榛名山を重力だけを頼りに駆け下り、ディーラーまで到達するというもの。最も近い日産ディーラーは渋川市内の国道17号線沿い。 山頂からは約18kmの距離 である。

 今までの中で最も困難な実験になることは明らかであった。

・このミッションの課題は大きく分けて2つ

 1.榛名山~伊香保温泉街:伊香保温泉街の渋滞と信号をタイミング良く抜ける 
 2.渋川市内での、日産ディーラーまでの下り坂をつないだ道探し


 まずは、榛名山を無事に下り、伊香保温泉街を抜けられるかを検証する。



榛名山山頂~伊香保温泉街(1回目)

 本来の山頂はロープウェイで登り、更に徒歩で行かねばならない場所だが、今回のミッションでは群馬県榛名町と伊香保町の境、標高1170m地点、いわゆる峠ダウンヒルのスタート地点を山頂と定義する。
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 この道を榛名湖を背にし、伊香保温泉街を目指し、ギアをニュートラルのまま渋川市内を目指す。ギアを入れてクラッチをつないだ瞬間に実験は失敗とする。

 最初のコーナー番号は30。ここから1番のコーナーまで下る。予想に反し、コーナー次々とクリアする180SX。スピードに乗り、難なく5連ヘアピンを駆け抜けた。

 「結構な急坂なんだなぁ、榛名は。ミスって減速しすぎても、すぐに速度が回復してくれる。 結構行けるかも知れないぞ。」

 しかし、 そう思うのは早すぎた と言うことをすぐに知らされる。そう、まだ全行程の5分の1も走行していないのだ。

 「あー、追いついちゃったよ。」

 「かなり遅いね。」

 と、助手席のゆみごん社長。今回は写真撮影を担当している。
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 180SXの前に黒のバンが現れた。さらにその前を走行する1BOXはどこかのホテルの送迎らしい。榛名山まで宿泊客を連れて行ったのか、それともホテルまで連れ帰る途中なのか。最後の1番コーナーの登りを惰性で登るには、あまりにも遅すぎる。

 「マズイな......。今はまだいいが、徳富蘆花記念館前の1番コーナーの進入で時速60km以上は欲しい。何とかならないものか......。」

 そう言いながら無策のまま1コーナーまで来てしまったドクターうるふ。速度はわずか時速30km。50mほど車間距離を開けていたが、既に後ろから来た車には追いつかれている。50mの車間距離も不自然な印象だ。

 送迎1BOXと黒のバンが1コーナーに近づく。ブレーキランプ点灯とともに、減速。50mの車間距離は数秒で削られ、180SXはコーナー途中で追いついてしまった。立ち上がり後の上り坂だがブレーキを踏むしかない。速度は時速20kmに低下。1BOXと黒のバンは速度を上げて登りをパス。180SXとの間は開く。

 しかし、180SXはエンジンの力を利用できないため、今度はその差がぐんぐん開いていく。後ろを走る車からすれば、180SXの挙動は謎でしかないだろう。

 「ダメだ、コレじゃぁ」

 ドクターうるふはギアを2速に入れ、アクセルを踏んだ。実験は失敗である。ドクターうるふはUターンし、再び山頂へ。


榛名山山頂~伊香保温泉街(2回目)

 「全然ダメだな。昼間じゃムリなのか...?」

 「平日だってのにこの人じゃあね。」

 おりしも榛名山は紅葉のシーズン。 もう、終わりに近い頃だが、それでもこれだけの観光客が足を運んできているとは。

 「とにかく、もう一度走ってみよう。もし、失敗したとしても、次はその場からすぐに実験を再開し、とにかく下まで行ってみよう。」

 部分的に切り取って実験し、各パートごとに成功できるか検証しようという作戦だ。

 山頂から5連ヘアピン、7コーナーまでは先ほど同様問題なく来れたが、やはりここで前走車に追いつき、背後にも車がついてしまった。加速も減速もできない状況再び、である。

 「まただよォ」

 悪態を漏らすドクターうるふ。

 「さっきのことも考えると車間距離は100m以上は欲しいね。」

 「この渋滞で、100mの車間は取れないな......。」

 また、ダメなのか。と、そのとき、ドクターうるふは思いもよらない行動に出たのである!

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「待避所に入って、後続車をやり過ごそう」

 7コーナーから6コーナーへのストレート。左側(谷側)に2箇所の待避所がある。そこに入って、後続の車を全てやり過ごし、後続がいなくなったところで再び本線に戻ろうという作戦。しかし、そんなことが可能なのか。

 2箇所のうちの長いほうの待避所を選んで入ったドクターうるふ。とは言えそれほど長いものではない。スケートリンク入口から後ろについていた車列はここに来るまでの間に10台以上にまで膨れ上がっていた。

 数台の車が180SXを次々と抜き去る。バックミラーで切れ目を確認しつつ、停止しないように注意する。

 人が歩くくらいの速度を保ちつつ、全ての車が過ぎ去るのを待つ。できれば停止させたくない。次の車も近づいている可能性がある。なるべく早く巡航速度に戻したい。

 車の列が、切れた。待避所の終端が迫る。すかさず右ウインカーを出し、本線に戻る180SX。やっぱりだ。バックミラーには7コーナーを抜けてきた新たな後続車が写し出されている。

 「早くしてくれ~」

 そうである。いかに榛名山が急だとは言っても後続車がバックミラーに写っている状況では下り坂だけに頼った加速では物足りない。しかし、6コーナー途中でようやく時速30km程に回復。後続車にはまだ追いつかれていない。

 「アブねェ~......」

 ため息混じりに漏らすドクターうるふ。しかし、冷静に考えればこれは1コーナーを抜けるための準備に過ぎない。まだ1つの関門も突破できていないのだ。もうすぐ1コーナー。先ほどの後続車にはかなり近づかれたが、速度は60kmといいペースをキープしている。前方に車はない。

「行くぜェ!」

時速70kmでコーナー手前に進入。ブレーキを踏んで軽いフロント荷重を作り出す。コーナー脱出時の速度は時速50km強位だろう。徐々に速度を落としながらも、第一関門の1番コーナーの坂を登りきった。

「よっしゃァ!」

 徳富蘆花記念館前で時速約30km。このくらいの速度で走っている車はいくらでもいるので問題ないだろう。

 しかし。先ほどからスピードメーターに気を取られていたドクターうるふが、前方を見たとき、絶望的な光景が眼前に現れたのだ。

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「マジか...」
観光客の集団である。

 問題の1コーナー立ち上がり後に横断歩道が存在する。右側には伊香保の石段街があり、町営駐車場は左側。それを結ぶのはこの横断歩道のみ。それゆえに、ここをパスするのは運任せだ。

 無情な減速。そして停止。180SXが再び動き出すことはなかった。

 先ほどの関門の直後、これほどの強烈な問題が待ち受けていようとは、さすがのドクターうるふも予想だにしなかった。

 また、失敗である。

 「しょうがない、ここをパスしたとして、この先も走ってみよう。」

 歩行者が切れた後、時速20km程まで1速で加速し、再び惰性走行に入る。この先伊香保温泉街は緩やかな坂が続いており、不用意な減速や停止はミスに直結する。

 次の障害である、伊香保町役場前の信号。ここは下りではあるものの、傾斜は緩く、惰性での再発進はできるが、後続車がいる状態では現実的ではない。
 今回は運良く信号が青でそのまま通過。速度も時速40km前後をキープし、問題ない。

 続いて、「伊香保」交差点。ここは平坦なため、かかればアウトだ。

 「ヤバイ、このままだと停まる」
 「減速するしかないんじゃん」

 信号の相当手前なら下り傾斜がある。そこに残って青になるのを待とうと言う作戦だ。青になったら、残った惰性とわずかの下りで、そのまま信号をパスしようと言う作戦だ。

 「不自然かな?オレの走り。」
 「かなり不自然だね。」

 それはそうである。先の信号が赤とは言え、そこまでは100mくらいあって前には誰もいない。後続車からすれば減速する理由がないのに極低速する謎の車と認識される走りだ。

 「"伊香保"交差点は三つ又だから信号が予測出来ねェんだよな。」

 そう言いつつもドクターうるふは決断した。信号は赤だがブレーキを離す。180SXは下り坂の惰性に任せて速度を上げていった。このくらいの速度がなければこの先の平地を突破できない。

 速度は良い。だが、赤信号で止まっていた前走車との距離はどんどん詰まる。後続車を引連れているときは長すぎると感じた前走車との距離も、こうなると短すぎると感じられる。信号まで後30m。ようやく青に変わる。停止していた車は2台。先頭の車が発進。続いて2台目が動き出す。180SXが前の車に追いついたのはそんなときだった。

 このままではぶつかってしまうので軽くブレーキを踏む。減速しつつも、再び下り坂エリアに突入。何とか切り抜けた。

 「あぶねぇ~......」

 180SXは再びペースを回復。竹久夢二記念館前を通り過ぎる。

 しかし。次なる問題が180SXにふりかかる。


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2019年12月6日、リメイク動画を公開!



1999年11月

 ゲリラ実験室が発足して間もない頃であった。ゲリラ実験室本部の電話が鳴る。受けたのはドクターうるふ。

 「もしもし...」

 「うるふか......?調子はどうだ?」

 電話の向うからは潜めた男の声。穏やかに話は切り出されたが、ただならぬ雰囲気が漂っている。男は少し間を置いてから、こう切り出した。

 「新たな指令だ。今度のは手ごわいぞ。」
 「いつものことじゃないか。」
 「フッフッフ。僕のお遊びに付き合ってくれるのは君だけだからね......。大切にしないと。末永く......」

 「お遊びじゃないんだろう?」
 意地悪く突っつくドクターうるふ。両足をどっかりと机の上に投げ出している。

 「お遊びもビジネスも大差はない。」

 男は、続けた。
 「次のミッションは......」

 ゆみごん社長が実験室に入ってきた。ドクターうるふのただならぬ表情を見たのだろう。入口で動きを止めたまま、じっと様子をうかがっている。

 「バカ野郎。そんなのムリだ。」
 「フッフッフ。時間的な制約は特に定めない。健闘を祈っている。」

 「誰?」
 と、ゆみごん社長。表情は硬い。
 ドクターうるふは「フーッ......。」と、大きく息をついた後、
 「新しいミッションだ。今度のは手強いぞ。」



ゲリラ実験室
MISSION7 榛名山でミッションが壊れた!惰性で麓の工場まで走行せよ!


 「無理だよォ、そんなのォ......。惰性走行で工場までなんて。だいたい、日産のディーラーってどこにあるの?」
 投げ捨てるように、レポートを机の上に放り出すゆみごん社長。話を聞いただけで諦め半分の様子だ。
 「ここ。渋川市内の国道17号沿い。ここが一番近いとこ。」
 ドクターうるふは冷静に指を指して見せる。
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「ゼッッッッッッッッッッタイに、ムリ。」

 最も近い日産ディーラーまでは榛名山の山頂から18kmもの距離にあった。時間にして40分(当時のSONY製パソコン用ナビNavin'you4.5で算出。上記画像も同製品のもの)。これを全て榛名山からの惰性走行で走破しようというのだ。

 「だろうな。でも、とりあえず行ける所まで行ってみる......ってことしかないだろう。まぁ、見てなって。驚異的な記録をたたき出してやるさ。」
 単なる開き直りなのか、それとも勝算があるのか......?ドクターうるふの表情には久しぶりに自信がみなぎっていた。


2000年12月

 あれから1年が経過した。

 当研究所ではこのミッションの成功に向け、常に高いものを追求してきた。既に何度目の榛名山遠征になろうか。しかし、いかに数を重ねようとも実験前の綿密なブリーフィングに気の緩みは微塵もない。実験室にはドクターうるふの他に、ゆみごん社長、ピパ子氏が座っている。

 ゆみごん社長とは既に何度か実走実験をしているドクターうるふ。今回はその中間発表だ。

 「この実験は"ミッションが壊れた"という設定で、動力の伝達が全く出来ない状況下にあることを想定している。つまり、駆動力を伝達出来ないから、通常走行だけでなく、エンジンブレーキもかけられない。"下り坂はエンジンブレーキ併用"と言う、教習所で教わる大前提にも反して斜面を駆け下りてゆくのさ。」

 ドクターうるふはみんなの方を向き直った。

 「現在集まっているデータを全て洗い直しているところだ。現段階で分かっている問題点について再度確認しておきたい。まず、最初の関門。それがここだ。」
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 スクリーンに問題の場所が映し出される。榛名山第一コーナー。榛名山を下ってくると写真の左から来て、奥へ向かって登ることになる。道の延長上に見えるのが徳富蘆花記念館、バスが停まっているのは町営駐車場だ。

 榛名山頂から番号付きのコーナー30個の内、唯一ここだけが登り坂となる。コーナー立ち上がりが登りとなるため、いかに速度を落とさずにカーブを曲がれるかが最大の焦点となるだろう。

 「この他、いくつかの関門は伊香保温泉街に集中している。」

 「伊香保町役場前の信号に......、「伊香保」交差点の三叉路......他はどこも信号がらみだったね。」

 「そう、信号に掛かったら停止しなければいけない。信号が変わるタイミングを熟知し、予測した運転が必要だ。」

 「この先にもいくつか信号があるが、他の信号は停止する場所が下り坂になっているから、例え停止してもまた発進できる。」

 「ホントォ?」

 「そこを運良く突破できたとしても、厳しいのは斜面に対して、直角に走行する所だよね。渋川市内にはそう言うところが多すぎる。」

 と、数回のチャレンジに同乗したゆみごん社長が言い放つ。

 「そう。そして絶望的なのが、日産ディーラーまでの道が上り坂であること。」

 「じゃあ、絶対に無理じゃん」

 「そう。絶対に無理だった。それでも近くまで行ければそこからディーラーの人を徒歩で呼びに行って、押してディーラー内に入ることもアリだろう。」

 「で、結果はどうだったの?」(ピパ子氏)

 「これからその実験の様子をご覧に入れる。」

g_title.jpgゲリラ実験室index



エンジンの動力を使わず、 
坂を下る勢いだけでディーラーまで辿り着けるか?

 「渋川市内の国道17号沿い。ここが一番近いとこ。」 
course.jpg
「ゼッッッッッッッッッッタイに、ムリ。」 
 
ゲリラボ史上最も困難なチャレンジ!走行17km、所要時間は30分。 
こんなことが可能なのか?! 



 幾多の信号と上り坂。そして渋滞! 
困難は容赦なく180SXを襲う!!

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 「うわ、信号赤ンなっちゃった!」
 「突破、突破。行ける、行ける。」 


平地、信号、登りに歩行者、駐車車両。
 運と、技術と、根性と。


 構想1年、遠征10回。 



 
そして、180SXにトラブル発生! 
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 ガガガッ!!
 「クソッ、乗り上げた!」
 「止まる、止まるーっ!!」


 レッカーはもう、要らない?!
 JAFも逃げ出す、驚異の実験。 



 ディーラーは遥か......。果たして辿り着けたるか?


(2000年12月18日、旧サイトに公開したリライト版)



あれから20年...。
2019年、リメイク動画を公開。

2019年11月30日、予告編のリメイク動画を公開!


2019年12月6日、本編のリメイク動画を公開!

 餅はうまく焼けることが判明した。しかし、これだけでは満足しない。先ほど失敗した焼き芋を成功させてやろう、そう決めて、芋を装着していたその時。

爆音と共にレトロなスポーツカーが180SXの脇を通りすぎ、停車した。

「車壊れちゃったの?見てあげるよ!」

 これには肝をつぶした。「実は遮熱板で焼きイモ作ってんです」なんて言えるわけがない。

 車種は不明だが、真っ赤な6、70年代あたりと思われる2人乗りスポーツカー。幌の屋根である。オープンになるのだろう。年の頃は40~50歳くらいで、完全に趣味に生きているイイ感じの渋さがあるオヤジだ。隣には奥様と思われる女性が。

 あの車を走らせているのだから、ガレージでも持ってて、エンジンのオーバーホールくらい自分でやっちゃうんだろう。ボンネットを開けて若い男女がエンジンルームを覗きこんでいる姿を見て、「スポーツカーでカッコよくデートしてたらまさかのエンジントラブル、どうやって直したらイイのかさっぱり解らない哀れなオトコ1名。ヨシ、俺が助け舟を出してやろう。」そう思ったに違いない。

 そんな彼に、この計画を説明したら、どんなリアクションが返って来るか、予想もつかない。「そんなのは車に対する冒涜だよ!」と怒鳴られるかもしれない。

 「べ、別に壊れてるわけじゃありません。どうもお騒がせして済みませんでした」と言い、降りて来ないようにと祈った。幸い彼は、「あ、そうなの」といって、再び爆音を響かせて過ぎて行ったので安心した。今、冷静に考えてみると事実を言ってみても面白かったかもしれない。困っている人を助けてあげようとした人なんだから、絶対にイイ人だと思う。あのスポーツカーの方と、一緒に走っていたジムニーの方、あのときは言えなかったけど、僕たちは世界初の実験をしていたのです。

 再び碓氷峠。C130後ストレートの退避場にサルがいる。無視して通過してしまったが、今から思えば焼き芋の匂いをプンプンさせながら、停車してみても良かったかもしれない。エンジンルーム内の焼き芋に対し、サルたちがどんな行動を取っただろうか。

 その後もこれならホイル焼きでもグラタンでも作れそうだ、パンも焼けるかもしれないと、話が弾む。あたりはうす暗くなっていた。

 途中、エンジンルームにサツマイモが入っていることなどすっかり忘れて本庄でガソリンスタンドに入る。軽井沢に行った帰りは必ずここだ。

「窓拭いてもよろしいですか?」

 窓を拭いている店員さんは、さぞ、おかしいと思ったに違いない。なんで焼きイモの匂いがするんだろう。この車からするような気もするけど、そんな訳ないし......と。
 店員さんは平静を装っていたが、絶対に異変を感じているはずである。何しろ、本当の焼きイモ屋さんのように、あたり一面焼きイモの匂いがしているのだから。

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ラボに到着後、イモを取り出してみたが、今回も失敗であった。
芋を薄くするなどの対策を練る必要がある。

 前回同様、周囲5mmほどはうまく焼けているが、中心部には火が通っていない。やり方に問題があるのか、それとも温度か。課題は多い。

 ただ、今回の実験で、オーブンの倍ほど時間はかかるが、餅は確実に焼けると言うことが判明した。特別な技術は必要としない。途中で裏返したりもしていない。遮熱板に密着するように固定できれば、後は走るだけである。下に、おおよその焼き時間を示しておく。

通常走行(2000~3000回転) 40~50分
高速走行(3000~4000回転) 35~45分
全開走行(4000回転以上) 25~35分?

 比較的火は弱いようなので、時間にそれほど神経質にならずとも大丈夫だと思う。停車場所が近くになく、すぐに取り出せそうにない場合は、回転数を下げて火加減を調節しよう。なお、実験に使用した180SXはエンジンの排気側、すなわち、餅がセットしてあるすぐ上に放熱のための穴が開けられているので、これを考慮すると通常の180SXではこれより5分程度、早く焼けるかもしれない。

 餅の枚数に関しては余り関係ないように思える。注意して欲しいのは厚さと置き方である。厚さが2cmを超えるような餅は薄く切ったほうが良い。火が通りきらない可能性がある。なお、厚さ3cm超えるようなものはスペースの関係で設置できない。置き方は、必ず遮熱板に密着するように固定し、走行中脱落しないように注意しよう。針金を固定するのは、エンジン本体や、パイピングなどの走行中に動きのない部分にすること。アクチュエーターなどには絶対に固定したり、針金を干渉させたりしないように注意しよう。今回の実験ではエンジン本体のパイピング類と、ストラットタワーバーを固定に利用した。

 今回の実験を終えて、ドクターうるふは語る。

 「なんで、こう言う器具って言うか、装置が発売されないのかなって思うね。個人レベルの針金とアルミホイルだけで餅が焼けちゃう。メーカーが作れば湯沸かしだってパン焼き器だってなんだってできちゃうよ。湯沸しなら実用性も高いし、メーカーだったら絶対に実現させられると思う。RV車にはオプションで用意したら絶対に売れると思うよ。

 今、お湯さえあればなんでも作れちゃうんだよね。目的地に着いてさ、すぐにコーヒーでもスープでも飲める。暖かいものが常にあるって言うのはアウトドアでは本当に幸せなことなんだよ。今の時代に、絶対必要なものだと思う。

 誰か、そう言う関係の方がいたら作ってよ。「うるふの怪しいホームページ」宣伝してくれれば、このアイデア、タダで持って行って良いからさ。もしかしたら、億単位の儲けになるかもよ。

 ま、今回は餅だったけど、非常に簡単にできて、かえってレポートがつまんなくなっちゃった。それくらい簡単にできた。着いたらすぐに食べられるでしょ。手軽なんだよね。容器を改良して、装着と取り出しがもっと簡単になれば利用価値はかなり高くなると思う。焼きイモも絶対成功させて見せる。このままでは終わらないよ。」

と意欲を見せる。この排気熱利用に大きな期待を寄せているようだ。

実験は無事終了し、その結果だけを残して、研究員たちはいずこかへ去って行った。
新たな検証が、彼らを待っている。

走行中に調理して、
着いたらあったか、すぐ食べる。
2000年は新しい鏡開きでスタートしませんか。



 芋を室内に持ちこむと焼き芋屋さんのあの香りが180SX内をいっぱいにする。時刻も12時とちょうど良い。食欲をそそる。外見も悪くない。透明感のある黄色。最高の状態だ。

 だが、ドクターうるふの口からは、思いもよらない言葉が飛び出した。

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「あー、ダメだ、こりゃぁ」

切り口の様子から想像頂けるだろうか。中心部はほとんど火が通っていない。

 「芯があるよ。芯っていうか、全然焼けてない。表面の2、3mmしか焼けていなくて後は全然火が通っていない。あったかくはなっているけど、完全に生の状態。これじゃあ、食べられないよ」

匂い的にはかなり良いのだが、残念だ。

 「仕方ない、とりあえず当初の目的に戻って餅をしっかり焼こう」

 ここで餅をセットし、妙義山を下りて、碓氷峠を登りきったところで試食しようと言う計画を立てた。時間的にはおそらく30分~35分程になるだろう。時間は若干芯があった先ほどと同じ位になるが、後半碓氷峠があるため、火加減的にはちょうど良いと思われる。

 今回はアルミホイルへの付着を防ぐため、最初から餅を海苔でくるみ、その上からアルミホイルで包装する。餅2度目のアタックは厚さ約1.5cm~2cmのサトウの鏡餅2つと、自家製かき餅2枚の計4枚。100%もち米使用の自家製かき餅を選んだのは勝利を確信してのこと。失敗は許されない。

 セットはもう慣れて来て、時間はかからなかった。12時23分、妙義山駐車場を後にする。今度は比較的おとなしい走行で妙義山を下りる。回転数は2500~4000程度。妙義山が終わって、碓氷峠までは通常走行が10分ほど。碓氷峠はまあまあスポーティーな走行で3000回転~5000回転くらい。

「最後、ちょっと焦げ目をつけるか」

と言って、C170くらいから全開走行にする。餅の状態を見ないで火加減を調節しなくてはならないのだから、職人芸だ。無論、餅焼き2度目なのだからうまく行っているかは解らない。適当なことを言っているだけだ。

 碓氷峠を通過し、長野県に入ったのが1時ちょうど。そのまますぐに右折し、別荘へ続く道の路肩に停車した。ボンネットを開けると、前回とは違い、海苔の焼ける香ばしい匂いが漂う。触ってみると柔らかい。残念ながら、焦げ目はないが、うまく焼けているようだ。

海苔作戦は大成功。アルミホイルには全然ついておらず、容易に取り出せた。 見よ!この美しい伸びを!180SXでこれだけ立派に餅が焼けるのだ!

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「今度はうまく行った。これは完璧」

と、2人とも興奮を隠さない。
そのまま醤油をぶっかけて食す。普通に焼いたのと全く変わりはない。今度も排気ガス臭いなどの問題もない。衛生面でもさほど問題はないだろう。おそらく、世界初ではないかと思われる、180SXで焼いた餅。今度は芯など存在しない。完全に食べごろの状態だ。

 今回の成功で、位置的な問題よりも、餅の厚さが、焼き時間に影響していることが判明した。


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 はっきり言ってうま過ぎる。豪快に醤油をぶっかけて食べよう。
 同じ焼肉も、河原でバーベキューした方が、家庭よりうまく感じるように、こっちの餅の方がおいしく思える。満足度は非常に高い。ブナの林に見え隠れする浅間山を眺め、思いを馳せるドクターうるふ。餅の伸び具合を楽しむように、くわえては引っ張って餅をちぎっている。何とも言えない、至福の瞬間だ。

 しかし、その満足はリベンジへの闘志と変わるまでにそう時間はかからなかった。

「焼きイモを成功させよう!」

 先ほど失敗した焼きイモを再び装着して、帰宅までの2時間半、通常走行のとろ火で、じっくり焼き上げようというのである。さすがに2時間半あれば火も通るだろう。

 そして、ボンネットを開け、イモを装着しているときに問題は起こった!今すぐ、次のページへ!


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 餅を遮熱板に装着してから35分、待望のボンネットオープンである。とりあえず、目視で確認する限りでは、脱落などのトラブルは見られない。

 軍手をしてアルミホイルに触れると、軍手を通しても餅の熱さが伝わってくる。やはり熱は十分伝わっているようだ。予定より長時間だったが、焦げたような臭いはしない。慎重に針金をほどいて行く。それほど針金は熱くない。ドクターうるふが声を上げた。

「焼けてるよ、これは。」

「焼けてる?」聞き直すゆみごん社長。
「焼けてる。絶対。」ドクターうるふがアルミホイルを取り出しながら繰り返す。「柔らかいもん。」

 なるほど、アルミホイルの上から押しても指の形にへこむ。イイ感じに焼けているようだ。車内でアルミホイルを開けてみる。

しっかりと伸びてくれた。これぞ、うまく焼けている証拠だ。

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「全然オッケーじゃん。」

 臭いをかいでみる。排気ガスなどの有害な臭いはない。アルミホイルにべっとりとくっついてしまっているが、試食には問題ないと思われる。そこで、実際に食べてみる。先に口にしたのはゆみごん社長だった。

「うん。普通のモチだ。うまく焼けてるよ」

ドクターうるふも食べてみる。
「こっちは餅が厚かったようだ。ちょっと芯があるな。それとも位置的な問題か......」

確かに、ドクターうるふの方はまだ焼けてない硬い部分が残っていた。

 妙義山では1発成功させたかったため、行く途中からテスト実施したわけだが、この時点でうまく焼けてしまったので拍子抜けする。すると、ゆみごん社長があくなき探求心をムキ出しにした。

「サツマイモ買おう。焼きイモに挑戦してみよう。
ナスとかシイタケも焼けそうじゃない?」




 道の駅「おかべ」は国道17号バイパス沿いにあり、普通車はもちろん、大型車も入ることができる規模のもの。酒、漬物など周辺の特産品も取り揃えており、食堂は朝7時半から営業。しかし、何といっても特筆するのは周辺で採れた農産物を直売しており、これが信じられないような激安なのだ。ゆみごん社長はそれを知っていた。

 とりあえず、巨大なサツマイモ、餅に巻く用の海苔、そのほか家庭で必要な野菜類もついでに買い込む。醤油は1リットル物しかなかったので、あとでコンビニで購入することにした。

 「妙義山までサツマイモを装着した状態で行こう。1時間半ほどかかるだろうから、十分焼けるでしょ。」と、ゆみごん社長。焼きイモにかなりの期待を寄せているようだ。

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厚さ3cmほどに切る。直径は10cmくらいのかなり大型のサツマイモだった。 新聞を束ねるときのような感じで芋を針金で縛る。1箇所をすぐに外れるようにしておいた。 運転席側から見てエンジンの左、ちょうど助手席の前あたりに遮熱板がある。あまり大きな物はつけられない。

 購入したサツマイモはあまりにも大きすぎて、限られたスペースには入らない。厚さを3cmにカットして、先ほどの餅と同様にアルミホイルでくるむ。針金は十字に巻き、1箇所がすぐに外れるように工夫し、簡単にサツマイモを取り出せるようにした。今回はサツマイモ自体に重みがあるのでしっかり固定する。ただ、スペース的に相当ギリギリなので、まず脱落はあり得ないだろう。

 道の駅「おかべ」を出る。時刻は10時10分。国道17号は比較的すいており、順調に進む。

 途中、松井田町付近のセブンイレブンで醤油を購入する。すでに1時間以上が経過していた。

 車の外に出るとボンネットからは焼きイモの匂いがただよって来る。完全に焼き芋屋さん状態だ。

「焼けてるよー、焼きイモ。」焼きイモができていると確信しているドクターうるふ。醤油を買って、ここでトイレを済ませる。ヤンマガの頭文字Dを立ち読みして車に戻る。真子ちゃんの番外編の後編だった。車に戻るとまだ焼きイモの匂いは周囲にただよっている。

 国道18号をそれて妙義山へ入る。妙義山はほとんど走ったことはないが、全開走行を試みる。碓氷峠に比べてタイトなコーナーはなく、路面も安定しており、グリップも良い。100km/h以上で走れるポイントが数多くあり、4000回転~6000回転の領域ばかりになる。排気温は相当上がっているはずだ。

「焼けすぎちゃってるかなー?、焼きイモ?」

 10分近い前回走行の後、山頂の駐車場に到着。室内まで焼きイモの匂いがたちこめる。かなり期待できそうだ。約1分のアフターアイドリングの後、ボンネットを開ける。

 エンジンルーム内は先ほどの餅の時と違い、物凄い熱気だ。マフラーや遮熱板などからはキンキンと言う金属音が聞こえてくる。明らかに通常走行時とは温度の領域が違う。一部、アルミホイルが白く変色している部分もあり、温度の高さを物語る。軍手をしても長時間は持てないほど、芋を包むアルミホイルは高温になっている。

 少し冷ましてから車内に持ち込む。ホイルをはがすと室内は焼き芋の良い匂いに包まれる。焦げなどは見当たらない。

しかし、そのとき、予想もしない言葉がドクターうるふの口から発せられた!!



 最近、環境に対する意識が国民レベルで高くなってきたように思う。我がゲリラ実験室でもゴミの分別収集を始め、紙の利用の削減などに取り組んでいる。
 そこで考えた。車のエネルギーを走行以外にも利用できはしないか。我々は、排気ガスの熱を利用してお湯を沸かすことは出来ないかと考えていた。温度的には可能だが、実現するのは難しい。水を入れるものは密閉容器にしないと水がこぼれるし、前走車の排気ガスが混ざるかもしれない。しかし、密閉すれば破裂する恐れがある......。固定方法や、取りまわしなどの面も考慮すると個人レベルでの実現は不可能のように思えた。
 計画はそのまま放置されていた。
 しかし、ある日。エンジンルームを見ていて、気がついたことがある。エキマニの遮熱板に水平部分が存在するのである。
ここで考えついた。もうすぐ正月、
180SXで餅が焼けるのではないか
と言うことだ。水と違って、餅のような固形物ならアルミホイルでくるめばそれで十分だ。密閉して沸騰して破裂、ような危険もなく、高熱なので衛生面でもほとんど問題はあるまい。
 しかも、先述の通り、180SXの遮熱版は、
「ここに餅を載せてください」
と言わんばかりの形状。更に改めて見てみると、固定に利用できそうなものはいくらでもある。温めるものを水でなく、餅にすることによって、この計画は、大きく成功へと近づいた。
「この勝負、もらった......」
 いま、日産の技術者さえもが思いつかなかった世紀の大実験が、我が「ゲリラボ」の手によって実施される!


kagami.jpg
 「あけましておめでとうございます、と言うことでね、2000年も、ゲリラ実験室は180SXを始め、車を愛する皆様を代表して、お役に立つ、様々な実験を行なって行きたいと思います。ま、本当にね、読んで下さる方々には感謝の一言に尽きます。月並みな言葉しかないけれど、ありがとうございます、と、お伝えしたいですね。」
 と、当実験室最高責任者、ドクターうるふ氏。らしくない、結構マジメな挨拶である。
 ま、正月と言うことで、それらしく180SXに鏡餅を置いてみた。

 使用するのは、この「食べたらわかる、サトウの鏡餅」である。2000年1月11日の鏡開きはちょっと違ったスタイルで、ライバルに差をつけることもできる。この実験が成功したら、180SXオーナーの方はぜひ試して欲しい。

 今回の実験に関して、ドクターうるふは語る。
「今までね、エンジンの熱を何かに利用できないかなと思っていたんだよ。エンジン内は800℃もの高熱になっている。でもその熱エネルギーが運動エネルギーとしてタイヤに伝わる分は30%以下だって聞いたことがある。つまり、半分以上は熱エネルギーとして空気中に無駄に放出されているって言うわけだ。だから、それを利用して餅を焼くって言うのは、無駄に放出される熱を積極的に利用しようって言う前向きな行動なんだよね。
 排気ガスがエンジン外に出て、エキマニを通るときでも600℃くらいはあるでしょ。遮熱板を通しても200℃にはなっていると思うな。オーブンで餅を焼くときは200度で約15分。だからこっちも15分くらいで様子を見てみたいね。
 え?その前に焼けるのかって?焼けるよ、絶対。今回は成功しか考えていない。問題は火加減だけ。出来る出来ないじゃないんだよね、オレの中では。

出来た餅がうまいかうまくないか
って言うことなんだよ。」

 とにかくその自信は並ではない。今までには感じられなかったほどの自信に満ちあふれている。
kagami_cut.jpg kagami_cutted.jpg

 鏡餅のままでは到底遮熱板の上に置くことはできないので、小さくカットする。火加減がわからないので様々な大きさの餅になるように切った。180SXのボンネットは即座にキッチンに変わる。通勤途中のドライバーが「なんでコイツら、こんなところでモチ切ってんだ?」と、怪しげに見て来るが、無視する。
 切った餅は右の写真のように遮熱板の上に密着するように置き、針金で固定した。今回は量が少なく軽いため、それほど神経質にならなくても良いが、脱落しないように注意しよう。アクチュエーターにでも餅が詰まってトラブルになったら、日産のディーラーに、何故こんなところに餅が詰まっているのか、説明するのが面倒だ。
 ただ、走行時の振動は予想を超えるほど大きい場合もある。餅が遮熱板から離れると焼き具合に大きな影響があるので、しっかり密着するように固定できているか、確認して欲しい。また、装着は必ずエンジンを停止してから行ない、遮熱板が熱いときは軍手をするなどして、事故を防ごう。
 8時55分、鏡餅片3きれを遮熱板に装着した180SXは妙義山へ向けて出発した。15分後にとりあえず様子を見る予定である。
 走行はとりあえず、2000回転~3000回転の通常走行を心がけた。信号での停止もほとんどなく、順調な走行が進む。15分が経過した頃、180SXは国道140号を走行していた。様子を見たいが、ここで停車するわけにも行かない。もうちょっと進むことにする。
 20分。国道140号を離れる頃、ドクターうるふに異変が生じた。
「ヤベェ。オレ、トイレ行きたくなっちゃったよ」
 突発的に訪れた緊急事態。餅を見ているヒマはない。とりあえず、道の駅「おかべ」に向かった。深谷市内を抜け、時間は25分経過。道の駅「おかべ」を目指したのは、トイレだけが目的ではない。餅につける海苔と醤油を購入するためだ。
 更にゆみごん社長は餅の次に第2段として焼きイモを焼こうという計画まで浮上させる。この女、人が苦しんでいるときに良くもそんな悠長なことが思いつくものだ。やはりタダ者ではない。
 「ここだっけなぁ......。」国道140号から道の駅「おかべ」などというレアなルート設定をしたことがないドクターうるふ。しかも、トイレに行きたいという思いが先行して思考がついて来てくれない。既に30分を経過。だが、別段車内には異臭などの問題は起きていない。無論、これは餅の方からの異臭である。ドクターうるふからの異臭ではない。
 餅の装着から35分が経過し、道の駅おかべに到着した。ドクターうるふも事無きを得たようだ。
 さて、いよいよ、待望のボンネットオープンである。果たして、結果は如何に?


kagami.jpg
「焼けるよ、絶対。
今回は成功しか考えていない。
出来た餅がうまいかうまくないか
って言うことなんだよ。」

日産の技術者さえも思いついたことのない、
意表をついたとんでもない計画!


imo.jpg
サツマイモ買おう。
焼きイモに挑戦してみよう。
ナスとかシイタケも焼けそうじゃない?」
「あー、ダメだ、こりゃぁ」

そんなことが、可能なのか?!


imo_kotei.jpg
「最後、ちょっと焦げ目をつけるか」

「車壊れちゃったの?見てあげるよ!」

かつてない実験は、かつてない結果を呼ぶ!
衝撃の事実が、今、明らかに!!

ゲリラ実験室、MISSION3

180SXで餅は焼けるか?
2000年鏡開きは、180SXで行う!!

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